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【主張】診療報酬改定 十分といえぬ勤務医対策
中央社会保険医療協議会(中医協)が、来年度の診療報酬改定案を答申した。産科や小児科など病院勤務医対策に重点配分された。
過酷な労働条件に耐えかねて辞める医師は後を絶たず、地域の中核病院でさえ閉鎖される診療科がある。診療報酬のプラス改定分だけでなく、これまで開業医に向けられてきた財源の一部を勤務医の待遇改善に振り向けたことは評価したい。
ただ、捻出(ねんしゅつ)した財源は年額で約1500億円にすぎない。病院全体の収入16兆円超からみれば1%にも満たない額だ。これで、勤務医の待遇が大きく改善するとはとても思えない。
しかも、収入増分を受け取るのは病院だ。過去の改定でも産科や小児科には手厚く配分されてきたが、目に見えた効果は出ていない。収入増分が本当に勤務医の待遇改善に回されるのか、中医協は徹底的な追跡調査と検証を行うべきだ。診療報酬改定による誘導策には限界もある。政府には労働環境の改善など抜本的な勤務医対策を講じるよう求めたい。
今回、思い切った勤務医対策ができなかったのは、日本医師会(日医)の強い抵抗で開業医の再診料引き下げが見送られたことが大きい。厚生労働省によると、開業医の再診料を10円下げれば120億円弱の財源を捻出できたという。まとまった財源が確保できれば、さらに効果的な対策を講じることも可能だったはずだ。
「地域医療を支えてきた診療所の元気を喪失させる」というのが日医の反対理由だが、違和感を覚える。病院も地域医療の一翼を担っている。逆に、オフィス街のビルで、昼間しか診察を行わない開業医も少なくない。「地域医療」が声高に叫ばれても、多くの国民は納得できまい。
小泉政権は診療報酬を聖域扱いせずメスを入れてきた。その小泉政権後初の改定となった今回、日医の強い働きかけで、自民党の族議員が積極的に動き回る姿が復活した。
高齢化社会の進行で医療費は膨張し続ける。日医に配慮しすぎて医療改革が足踏みするようなら、政府や与党は間違いなく国民の信頼を失う。勤務医の待遇改善は待ったなしだ。開業医の再診料についても、聖域にするようなことがあってはならない。