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社説:診療報酬改定 意気込みが腰砕けではないか

 中央社会保険医療協議会(中医協)が08年度の診療報酬改定を答申した。診療報酬とは、患者が病院や診療所で受けた治療などに対し、公的医療保険が支払う価格を細かく定めたもの。2年に1回見直され、価格の上げ下げを通じて国民の望むような医療へ誘導する狙いがある。

 改定の焦点は、激務で疲弊する病院勤務医や産科、小児科の医師不足に対し、実効ある待遇改善ができるかどうかだった。改定項目を見ると、これらの分野へは重点加算されており、方向性には異論がない。

 しかし、ポイントだった開業医の再診料引き下げが日本医師会(日医)の抵抗で手つかずで残った。中途半端な印象はぬぐえず、改定が医療現場で起きている問題をどの程度解消できるか、心もとない。

 外来の初診料は開業医、勤務医とも2700円だが、同じ病気で2回目以降の診察にかかる再診料は現在、開業医710円、勤務医570円。中医協は当初、開業医の再診料を下げ、カットした財源で勤務医などの待遇改善、医師不足対策につなげるつもりだった。

 開業医の多い日医が再診料カットに猛然と反対した。再診料は「地域医療を支える開業医の無形の技術評価」という論理で拒否。次期衆院選での支持組織票が逃げるのを恐れた与党も後押しした。結局、中医協は開業医の再診料引き下げを見送る一方で、勤務医の再診料を30円引き上げるという苦肉の策で決着した。

 財源は、診療報酬のプラス改定分(1100億円)のほか、目薬の点眼といった軽微な治療を無料化したり、アドバイス料である「外来管理加算」を見直し、開業医の収入を400億円削って捻出(ねんしゅつ)した。

 厚生労働省は「名を捨てて実を取った」と言う。だが開業医の再診料に切り込んでいたら、もっと多くの財源をひねり出せたかもしれない。再診料の格差は、病院へ患者が集中する一因とも言われ、ひいては勤務医の過重労働につながる。厚労省の調査では、開業医の平均年収は約2500万円で勤務医の1・8倍。勤務医の「きつい・長い・安い」が病院離れを起こす背景にある。

 開業医の再診料引き下げと、夜間・休日診療の開業医厚遇をセットにすることで、時間外診療に消極的な医師を淘汰(とうた)し、勤務医が安易な開業へ走ることに歯止めをかける狙いもあった。だが中医協は引き下げに手をつけられなかった。

 開業医といっても、ひとくくりするわけにいかない。夜間や休日に診療する「赤ひげ医師」がいる一方で、都心のビルで昼間しか患者を受け付けない診療所もある。

 日医は一律の既得権にこだわるのではなく、より柔軟に対応してほしい。国民が求める医療から離れていけば、やがてツケは自分に返ってくることになる。

毎日新聞 2008年2月14日 東京朝刊

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