沖縄県警沖縄署が、中学三年の十四歳の少女を暴行したとして、強姦(ごうかん)の疑いで米海兵隊の三十八歳の二等軍曹を逮捕、送検した。一九九五年の米兵による小学生女児暴行事件を思い起こさせる凶行が再び繰り返されたことに、衝撃と強い憤りを覚える。
調べでは、二等軍曹は十日夜、沖縄市の繁華街で三人連れの少女に声を掛け、うち一人を基地外の自宅に誘い込んでわいせつな行為を迫った。その後車で連れ出し、車内で暴行した疑い。少女は車を降りた後に保護され、その話から署員が自宅前で車の中にいた容疑者を緊急逮捕した。
日米地位協定は現行犯逮捕の場合を除き、犯罪容疑者の軍人・軍属は起訴前まで米側が身柄を拘束すると規定し、九五年の事件を機に凶悪犯罪については米側が起訴前の身柄引き渡しに「配慮を払う」ことになった。今回、米兵は沖縄県警に緊急逮捕され、身柄は日本側にある。今後の司法手続きも日本側に委ねられるとみられる。日本側の手で徹底的に事実関係を調べた上で、法的に厳正に対処していく必要がある。
犯人が捕まっているとはいえ、沖縄県民の怒りと不安は察するに余りある。米軍基地と隣り合わせの生活に伴う悲劇と恐怖を、何度味わわなければならないのか。
九五年の事件は県民の反基地感情に火をつけ、外交問題に発展した。翌年、当時の橋本龍太郎首相が主導して両国政府が普天間飛行場の返還を発表した。米軍は再発防止の努力を強調するものの、二〇〇一年の米兵による二十代女性への暴行をはじめ、その後も暴行や未遂事件が続き、強盗致傷事件などもあった。事件以外でも〇四年に宜野湾市の沖縄国際大構内に米軍へリが墜落し、この時も反基地感情が燃え上がった。
県民の心を逆なでする事件が再び起きたことに福田康夫首相は「重大なことと受け止めている」と述べ、政府は米側に強い遺憾の意を伝え、綱紀粛正や再発防止策を求めるなどした。米政府には、引き続き強く働きかけていかなければならない。
在沖縄海兵隊が「沖縄県警の捜査に全面協力している」とコメントするなど、米側はこれまでのところ協力的なようだ。米側には、今後も日本による司法手続きに積極的に協力する責務がある。
一番重要なのは再発防止策だ。米海兵隊は基地外への外出規制や隊員教育に力を入れているという。それでも事件は起きた。米側任せでなく、実効ある防止策の早期具体化へ、日本側の関与が必要なのではないか。
米空母艦載機移転受け入れの是非が最大の争点だった山口県岩国市長選で、移転に賛成する前自民党衆院議員の福田良彦氏が移転反対の前市長井原勝介氏を小差で破った。
両氏とも政党の正式な推薦などは求めなかったが、与党が福田氏、野党が井原氏をそれぞれ応援する実質的な与野党対決の構図になった。在日米軍再編を進める政府は、ひとまず安堵(あんど)しただろう。
市長選は移転をめぐる事実上の「住民投票」といえた。賛成派の福田氏の勝利で、岩国市民は二〇〇六年三月の住民投票、同年四月の前回市長選で示した移転反対の意思表示を転換した形になった。
ただ市民が明確に移転を支持したとは言い難い。政府が市に対して取った「アメとムチ」の対応が功を奏した面が否めないからだ。
井原氏が反対姿勢を貫くため、国は市庁舎の建設補助金三十五億円をカットした。これが井原氏と市議会の関係を悪化させ、井原氏の辞職、出直し選挙の原因になった。さらに移転に協力すれば国から支給される米軍再編交付金が、井原氏の反対により外された。額は十年間で百三十億円と試算されている。なりふりかまわぬ国の圧力だ。
共同通信社が市長選の投票時に実施した出口調査では、深刻化する市の財政難や景気低迷の打開策として政府の支援を受けるため、やむなく移転に賛成した有権者が多かった。苦渋の選択といえよう。
勝利した福田氏は「安全安心を確保し、有利な交付金を引き出す」と条件闘争に入るとする。住民の対立感情は根深いだけに、対応を誤れば再び反発が強まりかねない。福田氏や政府は住民の理解が深まるよう、丁寧に協議を進める必要がある。
(2008年2月13日掲載)