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2006/05/26 金
ライブドア監査人の告白
2004年3月1日月曜日、朝10時前に田中さんが私のデスクに来ました。
「出してきましたよ」
「え?もう?」
「ええ、すっきりしましたよ。保田さんはまだ?」
「まだなんです。上司が午前中は外出なので午後になりそうです」
私は田中さんに遅れること数時間後に辞表を提出し、晴れて二人ともUBS証券を退社したのでした。なぜ3月1日だったかというと2月29日がボーナスの入金日だったので、入金を確認してから辞表を提出するというのが外資系での常です。入金される前に辞意を表明するとボーナスが振り込まれないこともありえますので、毎年この日は辞表ラッシュになります。
外資系であっても、どこの会社でも社内政治はありますし、くだらないことのオンパレードです。また、投資銀行こそはクライアントへのベストアドバイザリーを提供しないといけないのに、フィー獲得に走ってしまい、インベストメントバンカーとして自らの役割に自信が持てない場合もあったりと…
田中さんも私もお互い曲がったことや納得のいかないことには最後まで噛み付く性格だったので、上司には反抗するわ納得いかない仕事はしないわで、まあ共通点がたくさんありました。ということで、田中さんとはそういうご縁で在職中から今でも、お互いの奥さんを含めて非常に仲良くしております。
そんな田中さんが本を出版し、今日から書店に並びます。
ライブドア監査人の告白
田中 慎一
私のブログを以前よりご覧になっている方であれば、この田中さんが何度かブログに登場したことがあるのでご存知かもしれません。今年の初めにも彼のブログを「ビジネスマンにとって役立つブログ」ということでご紹介しました。ちなみに、ライブドア事件後、彼のブログは休止中です。
彼はライブドアを監査していた港陽監査法人のパートナーです。ただ、彼はベンチャーサポート部というベンチャー企業の上場支援部隊の責任者でしたので、当初はすでに上場していたライブドアの監査は彼の管轄外であり携わっていませんでした。したがって、今回起訴された港陽監査法人の会計士に田中さんは含まれていません。
しかし、彼はもろもろの事情で、2005年4月からライブドアの監査責任者を務めるようになりました。2005年4月というと、ライブドア事件がすでに起こっていた2004年10月より後なので、彼がライブドアの監査をするようになったときには粉飾決算、偽計取引などはすでに起こってしまっていました。そして、2005年5月に彼はライブドアの異常な取引に気づきます。その後、彼はライブドアを更正させるために一生懸命戦うのですが、道半ば、2006年1月、強制捜査が入ってしまいました。
本書はそんな田中さんの書下ろしです。自分の属する監査法人、上司、そして自身がライブドアの粉飾を止めることができなかった苦悩、後悔を如実に書かれています。ですので、堀江氏や宮内氏は実際はどんなやりとりをしていたか、などはあまり触れられていません。そういうものを暴露することが目的ではないのです。
彼は、起訴された会計士ではないので、世の中がライブドア事件のことを忘れていくにしたがって、彼も普通に会計士として生計を立てていくことが可能です。特に監査法人への民事訴訟などもありますので、このような本を出すといろんな批判や非難を受けることは間違いないと思います。つまり、一般的に考えれば彼が今回の本を出版するメリットは何一つなく、愚考そのものでしかないと思います。単にわざわざ火中の栗を拾いに行っています。それでも、覚悟して事件の真相、そして、そこからの教訓を何か残したいと思ったようです。そして、彼は本書でも書かれていますが、今年6月の港陽監査法人解散と共に会計士の資格を返上することにしています。
本書では、どうして監査法人が粉飾を止めることができなかったのかを扱うことで、この事件からの教訓を我々に伝えてくれます。それは会計士、企業経営陣、そして一般ビジネスマンに及ぶまで非常に参考になります。もちろん彼の中には自らへの自戒という意味も強いと思います。
この本を読み終わり、投資銀行にいた時代に彼とよく「クライアントにはこういうサービスを提供すべきだ」「あんな商品を奨めてはいけない」などと熱く語っていた頃を思い出しました。
本書ではこのようなくだりがあります。
_QUOTEC
「よくよく考えてみれば、会計士を名乗っている以上、知識やノウハウがあるのは当然のことであって、それがなければ商売にもならない。特殊な技能を持っているのは、どんな職業でも当たり前のことであって、ことさら自慢することでもないだろう」
彼らしい言葉で、こういう考えを持っていることが私が彼を尊敬している理由です。
_QUOTEC
「会計士に本当に必要なものは、知識でもなく、地頭の良さでもない。本当に求められているのは”強い意志”だ。強い意志があって、はじめて確固としたプロフェッショナリズムと強烈なプライドが生まれ(中略)、仕事に迫力と厚みが感じられるようになる。もっとも、私も今回のライブドア事件の当事者であり(中略)、十分な説得力を持って理解されないだろうが」
結局、過去の監査責任者が強い意志が持てなかったことが今回の粉飾を見逃すということにつながっているわけですが、それは世の中の他のいろんな場面でもあるのだと思います。談合や耐震偽造もその類かもしれませんし、普通のビジネスマンでも、モラルハザードに悩まされることは日常茶飯事だと思います。モラルハザードに流されると、そのうちマヒしてきて繰り返してしまう。そして、チリも積もって山となったときには大問題に…
リスク管理、モラルなどが声高に叫ばれる現代のビジネスシーンにおいて読んでおきたい1冊です。
コメント
この本も田中さんのことも知らないんだけど。
でも、この世の中で自分が何をすべきかって決めてるひとにとって、『会計士』だとか『弁護士』だとかその他諸々の資格やら肩書きやらって道具にすぎないんでしょうね。
『なにかをしなきゃ』っていう使命感のあるひとは、損得じゃない価値観で突き動かされてるんだろうから。
他人と関わって生きていくっていう意味でのビジネスマンにとって、その使命感って、働くってことの全部なんだろうなって思います(うまく言えてる気がしませんが)。
この本,たいへんおもしろそう。
引用部分,心に響いた。
さっそく買ってみよう。
どんな事件のでも中途半端に関わると、その後その手の事件とどう関わってくかが難しいんですよね。被害者側であれ、加害者側であれ、目撃者他であれ。
「なかったこと」にしたりしなかったりといった大きなことから、すんごく細かいところまで選択の連続といいますか(上手く説明できてないけど)。
田中さんは「なかったこと」にしない決意を本にされたんだなというのが引用部分から伝わってきます。
まとまった時間を見つけて読んでみたいと思います。
私もUBS証券時代に、きまぐれなマネージメント連中に翻弄され疑問をもちながら仕事をしていた元同僚ですが、やはり仕事をしていくという上で、仕事上のモラルだけでなく人間としてのモラルが問われる、当たり前のことなんですけど、それがなされない職場はやはり人が続かない、長いものに巻かれるお調子者だけが生き残るということがよくわかりました。 田中さんや保田さんのような方は、やはり人に使われるのではなく、人を使う&育てる立場でお仕事をしていくのがあっているように感じます。今日会社帰りに早速本を買って読んでみたいと思います。 :hammer:
田中さんの本出版の話がここで聞けて本当に良かったです。私は以前から田中さんのブログを愛読していて、でも事件以来更新がされなくなってしまい、すごーく残念に思っていたのです。
彼のブログは難しいことをわかりやすく伝えるという意味ではとても優れていて、その他の記事も田中さんの人となりが伝わってくる感じがして、結構毎日チェックしていたのです。
まったく面識とかない人ですけど ;-) 。
保田さんのブログも田中さんブログ経由で知ったほど!
早速本買ってみたいと思います!
始めまして、この「ライブドア監査人の告白」昨日読了しました。
感想としては、ノンフィクション物として非常に楽しめました。
特に投資事業組合の正体に迫る辺りはギリギリの攻防といった感じで
非常に迫力がありました。
逆に残念だったのは、やはり監査人という立場からか、視線が
投資家より経営者に向いてしまっていた事です。ライブドアの
自社株還流スキームによる粉飾は、投資家から見れば「株式超有利
発行+売り崩し」と既存株主に被害を加えて利益を得ている事実を
隠蔽している非常に悪質な物であるのに、「時価総額を拡大するため」
などと軽く済ませている部分はちょっといただけませんでした。
また、田中さんが担当した2005年9月期以降においては「正常化」と
表現されていましたが、外からではグループ内MSCBやら、MSCB付きM&A
(しかも元オーナーの株式は高額のプレミアを付けて買取)やら、
仕手株への介入など、企業としてはグロさを増していたようにしか
見えなかったことも気になりました。
かなり厳しい感想になってしまいましたが、田中さんが今後、起業される
ような事があれば、投資家に対して誠実な経営者であってくれるよう
期待しています。
どうも、ゴローです!元気ですか?!
先日の日経新聞でも掲載されていましたよね。。
何も出来ないですけど、かげながら応援しております!
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