日経情報ストラテジー発ニュース

有害サイト「フィルタリング規制」の利害相反

〜規制推進元である総務省担当者に聞く

――携帯電話の方が規制しやすいと考えたのか。

岡村  そうではない。パソコンの場合は(電話会社、ケーブルテレビ会社、プロバイダーなど)事業者が多数ありばらばらに動いている。一方で、携帯電話は(NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクモバイル、ウィルコムの)4事業者しかない。その分、事業者の責任や判断の重みが増す。(政府の立場では)携帯電話の方が余計に難しい。

――携帯電話向けコンテンツ事業者からは「過剰規制」に対する批判の声が上がっている。

岡村  コンテンツ事業者の気持ちも分かる。でも、今のうちに犯罪防止の取り組みをしないと、いずれSNSなどが犯罪の温床と見なされ、批判の対象となることは不可避だろう。

 この機会に、コンテンツ事業者は18歳未満のコンテンツ利用のあり方を真剣に考えるべきだと思う。2007年11月に発足した「インターネット上の違法・有害情報への対応に関する検討会」を通じて、それに対する支援もしていきたい(注:同検討会は公開で行われており、事前に申し込めば誰でも傍聴可能。過去の議事も公開している。次回=第4回=は2月27日に開催予定)。

 既に、楽天、ヤフー、ミクシィ、DeNAなどから意見を伺っている。今後もなるべく多くの機会を設けて、率直に意見を伺うつもりだ。

携帯電話向けフィルタリングの精度が低いのは課題

――携帯電話向けのフィルタリング技術はパソコン向けに比べて未発達だ。今回の「要請」は拙速だったのではないか。

岡村  その問題は認識している。携帯電話事業者は、外部の企業が提供するURLリストを採用してフィルタリングサービスを提供している。その携帯向けURLリストを提供する企業が現時点ではかなり少ない。(注:携帯電話事業者4社はすべてネットスター=東京都渋谷区=のURLリストを採用している)

 ただし、現実に国民の命にかかわる事件が起きている。政府としては、技術の発達を待つよりも、子供を守ることの方が先だ。携帯電話向けフィルタリングが普及すれば、これまで以上に精度が問われるようになり、技術の発達を加速させる面もある。フィルタリング関連の企業にとっては新たなビジネスチャンスにもなる。

――実際に、18歳未満の利用者がSNSにアクセスできなくなるという事態が起きている。

岡村  現状は、フィルタリングの“目”が粗すぎるという問題は確かにある。SNSならすべてフィルタリングの対象になってしまうのは問題だ。18歳未満の人がSNSを使えないという状況がいいとは思わない。

 一方で、どのSNSなら安全かというのは難しい判断になる。海外では住民番号を入力しなければ登録できないSNSもあるようだが、そこまでするのが果たしていいことなのか。

――フィルタリングの利用を原則化するだけで、フィルタリングの具体的な中身を何ら示していないことが混乱につながっているのではないか。

岡村  本来、そこは政府が一番抑制的に動かなければならないところだ。総務省が何をどうフィルタリングすべきかという詳細な基準を示すことは今後ともない。政府は多様な価値観を認めなければならない。警察庁はまた違う視点を持っているかもしれないが、総務省としては、コンテンツに対する価値判断に踏み込むことはしたくない。

 事業者の間で、フィルタリングの基準作りをする努力も行われている(関連記事)。今は過渡期だが、いずれ落ち着くだろう。

 私は、(規制にかかわるような)行政の仕事は人から褒められてはいけないと思っている。それにしても、今の仕事は、(通信事業者、コンテンツ事業者、PTAなどの保護者・消費者団体など)関係者の利害が相反していて、あっちを立てればこっちが立たないという感じがする。平均台の上を歩いているようだ。

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