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東京・割りばし死亡事故:医師無罪 遺影に「ごめんね」(2006年03月29日)

 ◇無罪… 凍りつき、体中の血が止まった

 「適切な治療をしなかった医師がなぜ無罪なのか」。99年に東京都杉並区で杉野隼三(しゅんぞう)ちゃん(当時4歳)が割りばしをのどに刺して死亡した事故で、東京地裁が28日の判決で、当時の担当医の過失を認定しながら、救命の可能性がなく過失と死亡が結びつかないと判断したことに、遺族は悔しさをあらわにした。一方、判決で「医師として基本的な作業を怠った」と指摘された元担当医は、法廷で硬い表情のままだった。【佐藤敬一】

 無罪が言い渡された瞬間、隼三ちゃんの父正雄さん(54)は「頭が真っ白」になり、母文栄さん(49)は「凍りつき、体中の血が止まったように感じた」という。隣に座った長男(18)は「頑張れ」と母の手に自分の手を重ねた。

 会見した正雄さんは「裁判長が救命は難しかったと判断した理由は、私たちが理解できる内容とは到底思えない。直ちに控訴してほしい」と目を真っ赤にして話した。文栄さんも「過失があってカルテ改ざんも認められたのにおとがめなしでは、重い病気の人はどんな治療をされても刑事責任を問えなくなる。隼三の死が無駄にならなかったとは言えない」と声を絞り出した。

 会見場の机には、隼三ちゃんがほほ笑む小さな遺影が置かれた。文栄さんは「隼三には『力が足りなくてごめんね。お父さんもお母さんもあきらめないでもう一回頑張るから見守って』と伝えたい」と話した。

 事故が起きたのは、ウルトラマンが大好きだった隼三ちゃんが七夕の短冊に「正義の味方になって悪と戦いたい」と文栄さんに書いてもらった後だった。救急車で病院に運ばれたが、塗り薬を塗られただけで帰宅。翌朝、容体が急変した。

 自宅の玄関には今も隼三ちゃんの小さな靴が、2人の兄たちの靴と一緒に並ぶ。「今でも5人家族」との思いからだ。

 一方、被告の根本英樹医師(37)は判決後、弁護人に「無罪となったのは満足だが、過失が認定された点は残念」と話し、判決で指摘されたカルテの改ざんは否定した。

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 ■解説

 ◇「治療せず」は過失--注意義務、広く明示

 割りばしがのどに刺さって4歳男児が死亡した事故で、元担当医を無罪とした28日の東京地裁判決は、過失と死亡との因果関係に「合理的な疑いが残る」としながらも、適切な治療をしなかった「不作為の過失」を認めた。医師の果たすべき義務の大きさを示したと言える。

 元担当医の公判では検察側5人、弁護側10人の医師が証人採用され、尋問が行われた。それぞれの証言を基に、検察側は「割りばしが脳に達している可能性は認識できたし、命は救えた」と主張し、弁護側は「割りばしが脳にまで達するのは前例がなく予見できず、救命可能性はなかった」と反論した。裁判所がどちら側の医師の証言を採用するかが焦点だった。

 真っ向から対立した主張に対し、判決は過失については検察側の主張をほぼ全面的に認め、死因や因果関係については弁護側の主張を取り入れた。カルテの改ざんがあったという見解にまで独自に踏み込みながら、適切な治療をしたとしても命を救うのは極めて難しかったと判断した。高度の専門性を持つ医療について刑事責任追及の困難さを改めて示した。

 一方で、判決が「何もしなかったこと」を過失として認定した点は重要だ。過去に医師の刑事責任が問われたケースは、輸血や投薬の間違いなど医療ミスに対するものがほとんどだった。判決が「医師には患者が発するサインを見逃さず、真実の病態発見のために必要な情報の取得に努めることが求められる」と付言したのは、人命を預かる医師には常に最大限の注意を払う義務がある、と明示したと言える。【佐藤敬一】

 2008年2月13日

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