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【社会】民事は医師過失も認めず 割りばしで4歳事故死 両親の損賠請求棄却2008年2月13日 朝刊
東京都杉並区で一九九九年、綿菓子の割りばしがのどに刺さった杉野隼三ちゃん=当時(4つ)=が、杏林大病院(東京都三鷹市)で受診後に死亡したのは適切な治療を怠ったためとして、両親が担当医と病院を経営する杏林学園に、計約九千万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で東京地裁は十二日、医師の過失を認めず、請求を棄却した。 加藤謙一裁判長は「傷や意識状態、当時の医療水準などを考えれば、割りばしが頭の中まで刺さり、損傷を生じた可能性があると診断すべき注意義務は医師になかった」と判断した。 この事故では、診察した医師根本英樹被告(39)は業務上過失致死罪で在宅起訴された。東京地裁は「割りばしが頭の中に刺さっていると想定せず、十分な治療をしなかった」と過失を認めたが「治療しても救命可能性は低かった」と無罪を言い渡し、現在控訴審中。 原告は都立高教諭の父正雄さん(56)と母文栄さん(50)で、控訴する方針。 判決は、隼三ちゃん本人が割りばしを抜いたと救急隊員から報告があったことや過去に同様の症例がない点などを挙げ、診断ミスではないと指摘。その上で「仮に頭部の損傷が分かっていたとしても、救命の可能性が高かったとはいえない」と判断した。 一方で、傷を受けた時の状況について母親に当を得た質問をしていれば、詳しい症状をつかめた可能性に言及したが、「法律上の義務違反とまではいえない」とした。 判決によると、隼三ちゃんは九九年七月十日、盆踊り大会で転倒した際、くわえていた綿菓子の割りばしがのどに刺さった。杏林大病院の救命救急センターで、耳鼻咽喉(いんこう)科の医師の根本被告から、傷口に薬を塗るなどの治療を受け帰宅したが、容体が悪化し、翌朝に死亡した。司法解剖の結果、頭蓋(ずがい)内に七・六センチの割りばしが見つかった。 遺族ら衝撃『あまりに意外』「あまりに意外な判決で、頭が真っ白になった。医師がどんなにいいかげんな問診をしても、過失は問われないというお墨付きを与えたような判決だ」。亡くなった杉野隼三ちゃんの両親らは記者会見で、衝撃と落胆の思いをにじませた。 遺族が当直医の根本英樹被告や杏林大学病院側を相手取って民事訴訟を起こしたのは、二〇〇〇年十月の隼三ちゃんの六歳の誕生日。医師や病院が事故について納得できる説明をしないため、「どうしても真相を解明したい」との一念からだった。 わずか五分で隼三ちゃんを帰した当直医。問診さえきちんとやっていれば、異常に気付く機会があったはず−。それが遺族の主張だった。母の文栄さん(50)は「高度救急を受けられるからとわざわざ搬送してもらった先で、問診すらしてもらえなかった。病院から謝罪はおろか、紙一枚すらもらっていない」と話す。「隼三にかける言葉すら思い浮かばない」と文栄さんは涙ぐんだ。父の正雄さん(56)は「(過失を認めた)刑事裁判を無視するような判決」と憤った。兄の雄一さん(20)は「両親が闘ってきた九年間を否定された気持ちだ。こんな判決を後世に残したくない」と話した。
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