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【溶けゆく日本人】蔓延するミーイズム(7)疲弊する医療現場 (3/3ページ)
医療関係者によると、こうした困った患者は平成12年ごろから増え始めたという。医療事故が大きくニュースで扱われ、医療不信が高まるとともに、患者の権利が強くいわれるようになり、病院が患者を「患者さま」と呼ぶようになった時期と重なる。
もちろん医師や病院側に問題があるケースもあるだろう。しかし、最低限のルール、常識的なマナーを守れない患者の増加により、医師が疲弊し、病院から立ち去る原因のひとつとなっている。実際、全国の病院で医師不足が深刻になっているのだ。
月に150時間を超える残業をこなす中、「よくならないのはおまえのせいだ」「税金払ってるんだから、もっとちゃんとみろ」など、患者からの理不尽なクレームが容赦なく寄せられる。
病院が患者の問題行動に毅然と対応できないことも多く、また一部の議員がこうした患者の言い分を鵜呑みにして医師や病院に圧力をかけてくることもあるといい、医師の退職に拍車をかけている。
自治体病院の実情に詳しい城西大学経営学部の伊関友伸(ともとし)准教授は、「医師の立場や気持ちをほとんど考慮しない患者の増加が、医療崩壊の一因となっている。患者の権利を振りかざして自分勝手なことをいうことがエスカレートすれば、日本の医療が大崩壊するのは間違いない」と指摘する。
「医師だけでなく看護師ら医療に関わる人材は地域の財産だということを住民が理解する必要があります。この財産を守るために、一人一人が良識的な行動をとることを意識してほしい」
結局、そのことが自分の命を守ることにつながるはずだ。(平沢裕子)
厚生労働省の医療施設調査によると、産婦人科・産科を標榜する一般病院は、平成8年には2148施設あったが、18年には1576施設で、10年間で572施設減った。分娩を取り扱うのをやめる施設は増え続けており、とくに自治体病院や、地域に1つしかない産科施設が閉鎖するなど問題になっている。一方、日本外科学会は、将来の外科医師数について、平成27年に新しく外科医になる人はゼロと予測している。このまま外科医不足が進行すれば、盲腸などごく簡単な手術ができる医師もいなくなる。そうなれば、今はほとんどが助かるけがや病気で命を落とす人が増えるかもしれない。