◎金沢市議会政調費 2会派の自主返還は妥当
金沢市議会二会派の政務調査費に違法支出があったとして山出保市長に返還を請求する
よう命じた控訴審判決を受け、当時の二会派が自主返還を決め、市長が上告しない意向を示したのは妥当な判断である。判決は会派側の対応を「立証妨害」と厳しく批判しており、全国的な政調費透明化の動きも考え合わせれば、上告は時代の流れに逆行すると受け止められかねないだろう。
金沢市議会の政調費見直しについては、係争中を理由に突っ込んだ議論はなされてこな
かったようにも思えるが、今回の判決で市議会は他の議会以上に抜本的な対応を迫られることを認識しなければなるまい。領収書添付など政調費公開に向け、当事者能力が問われるのはこれからである。
控訴審の名高裁金沢支部判決は二会派の政調費からの飲食支出を違法と認め、山出市長
に計約千五百万円を会派から返還させるよう命じた。今回の訴訟では、被告はあくまで政調費を支出した山出市長であり、二会派は第三者的な立場に置かれた。その二会派は昨年五月に解散し、名称変更して新会派を立ち上げた経緯もあってか、訴訟では受け身の姿勢が目立ち、当事者意識が十分だったとは言いがたい面がある。
判決では、会派側が裁判所からの領収書や帳簿の提出命令に応じなかった点について「
事案の解明を阻害する立証妨害」と厳しい表現で踏み込み、的確な反論がない限り、市民オンブズマン石川の主張は合理的と判断した。一審判決は領収書など証拠の提出がないとして原告側の訴えを退けたが、控訴審は立証責任が議員側にも存在することを示したもので、この判例はいまや全国的な流れである。税金をチェックすべき立場の議員は、自分たちがもらっている税金(政調費)の使途を明らかにできなければ住民の信頼は得られにくいということでもあろう。
金沢市議会の政調費は県内の市町議会では最も高い一人当たり月額二十五万円であり、
議会活動に対する期待や責任はそれだけ重いと言える。判決を受けて渋々動くような印象を持たれぬよう、政調費の透明化については会派間の意思統一を図り、スピード感をもって結論を出してほしい。
◎加工食品の原産地 全原材料表示の検討を
中国製ギョーザの中毒事件で揺らいだ加工食品の信頼回復に向け、原産地表示のルール
を見直してはどうか。現行の日本農林規格(JAS)は、外国産の原材料が使われていても、すべての原産地を表示する義務を課していない。農林水産省は「全原材料表示」は困難との立場だが、石原慎太郎東京都知事は条例で、加工食品の原産地表示がすべてに及ぶ規定を考えると発言した。政府・与党も食の安全・安心を確保するために、すべての原材料を表示する方向で検討を始めてほしい。
石原知事が国に先んじて打ち出した産地表示の厳格化方針は、法の不備を補う狙いがあ
る。JAS法は、国内で製造された食品のうち、フライにしたり、味付けをした肉・魚など二十の食品群について、50%を超す重さを占める原材料があった場合、原産地表示を求めているが、それ以外は表示の義務はない。たとえば冷凍チャーハンなどは、肉や各種野菜などの原材料が輸入品であっても消費者には知る手立てがないのである。
問題になった「天洋食品」の加工食品は、中国で製造されたため、「中国」の表示があ
る。それなら日本で製造された食品を選べば安心かというと、輸入原材料が使われている可能性があり、完全には中国産を排除しきれない。これでは、消費者の不安は解消されず、食品メーカーにとってもマイナスだろう。
全原材料表示について、農水省は▽多くの原材料が使われており、正確な産地確認が難
しい▽相当のコストがかかる▽限られたスペースに原材料を表示するのは大変、などと否定的な説明をしている。だが、これらの問題点は、必ずしも高すぎるハードルとは思えない。産地確認ができないなら「原産地不明」の表示があっても良いのではないか。そうした商品を選ぶかどうかの選択肢は、消費者にゆだねるという手もある。
加工食品への信頼が大きく揺らいでいる今、いつまでも食品会社側の事情を優先してば
かりはいられない。全原材料表示への移行は、食品会社が原材料の調達に一層厳しい目を向けるきっかけになる。遠回りなようでも消費者の信頼を取り戻す一番の近道になるだろう。