教科書で名前を暗記させられた鎌倉時代の仏師・運慶(うんけい)の仏像が、米国で競売に出される、と報じられた。文化財に指定されていないので、国外へ持ち出されても文句は言えないそうである 海外流出はしゃくにさわるが、そんな文化財はたくさんあるし、日本に残っていても「幻の宝」というのもある。奈良・高松塚古墳の壁画は国宝だが、わずかの研究者以外だれも見ることができない。宝物とは何だろう。たとえ海外でも、人目に触れて「素晴らしいね」と言ってもらえる方が幸せではないか 石川県立美術館に一対のキジの香炉がある。雄は国宝で、雌は重要文化財。後世の人がつけた宝の「格差」に、誰よりも遠い昔の作者が驚いているに違いない。見るたびに雌が気の毒になる 韓国の国宝第一号・ソウルの南大門が焼失し、放火犯が捕まった。同じような事情で、私たちも国宝・金閣寺を失ったが、再建されて多くの人を集める。「国宝じゃないのか」と驚く声も多い 失われた宝は、再建されても国宝にはなるまいが、その努力と情熱は新たな宝物になる。宝を失った怒りや嘆き節ばかりでなく、そんな知らせを聞きたい。
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