さて、空間ベクトルの話は、(平面と何も変わらないので)退屈な話が続いてきましたが、ここからは、空間らしい、面白い(?)話です。
小学校以来、平面上の直線の方程式は学んできましたよね?
(平面上の)直線の方程式って、XとYを使って表すと、どう表せるんでしたっけ?
ですか?
そう答えた方、残念でした。(大学入試ならば)落ちましたね。
残念ながら、間違いではないですが、不十分です。
だって、全ての直線が、(1)の形で書けるわけではない、つまり、「傾きが存在しない直線もある」からです。
例えば、左の図で、青で書いている直線は、どんな方程式で表せるのですか?
Y軸に平行な直線です。
傾きは?
「傾き」の定義は、「Xが1増加したときに、Yが増加する量」ですよね。
でも、Y軸に平行な直線は、直線上を移動しても「Xが増加する事は無い」訳ですから、定義を満たさないわけです。
だから、Y軸に平行な直線は、傾きを定義できない(傾きが存在しない)訳です。
これ、すごく重要な事です。(言いかえると、大学入試では、「合否を分ける部分」という事。)
では、図の青い直線は、いったい、どういう方程式で書けるのでしょうか?
図の直線をよく見ますと、Xの値は(直線上のどこをとっても)2ですね。
一方、Yの値は、−∞ 〜 +∞ まで、どんな値も採れるし、何の制限も無いですね。(Xの値には無関係)
ですから、図の青い直線は、
と書けます。(二本の方程式を使って表している)
Y = 任意
の方は、
Y = free
と書く人も居ます。
また、大抵の人は、「Y = 任意」の方は、書かなくても明らかなので書かないで、青い直線の方程式は、
と習った人も居ると思います。
ま、別にそれでも結構ですが、複雑な問題を扱っていると、混乱するので、「Y = 任意」という方も書いておくことをお勧めします。
以上のことをまとめますと、直線の方程式は、
と書けます。(これらの方程式の全てをセットにして、初めて「答」です。一部しか書かなければ、ペケです。)
これは、無茶苦茶重要です。(ベクトルの範囲より、他の範囲での出題が多いでしょう)
また、方程式や式同士を、「and」や「or」で繋ぐ書き方も知らない人(今まで使っていなかった人)も居るでしょうが、書いたほうが良いですよ。
実際の入試問題を解くときは、一問を解くのに、20〜30分かかるのが標準的で、解答も、一問で、B4サイズの解答用紙がビッチリ埋まる事は、珍しくありません。
そうなると、解答も最後のほうにさしかかると、途中に出てくる方程式同士の関係が、どうなっていたのか、自分自身分からなくなって来ます。
ですから、方程式同士の条件が、「and」( = 両方が成り立つ必要がある)のか、「or」(どちらか片方が成り立てば良い)のかをはっきり区別するために、書いておきましょう。
(これは、自分自身のためであると同時に、採点官に読み易い解答を書く上でも、お勧めします。採点官もやはり人間ですから、相手の心障を考える上でも、お勧めします)
では、そもそも、直線の方程式を表すには、複数の式を使わなければならない、複雑な物であるのはなぜでしょうか?
それは、実は直線の式の標準形として習ってきた、「 Y = aX + b or X = C 」という表現は、実は本当は、標準形ではないからなのです。
実は、本当は、直線の方程式は、ベクトル方程式で表すべきなんですよ。
前の方のページでも書きましたが、慣れるまでは難しいでしょうから、もう一度、同じ事を説明しましょう。
この直線の方程式は、
ですが、ベクトル方程式では、
と表せますね。
ここでβは任意の実数です。(βを変化させると、点Pが直線上を移動できる)
で、(4)の式に注目してください。
この様に変形しますと、
ほら、(平面の)直線のベクトル方程式表示は、中学生のときに習った、直線の標準形が出てきますね。
実は、直線は、本来は「ベクトル方程式」の形で書くべきなんですが、中学生に教えるのは無理なので、 Y = aX + bの形で習ってきたわけです。
では、最初に出てきた、Y軸平行の、青い直線では、同じ議論は出来ないのでしょうか?
まず、青い直線をベクトル方程式で書くと、
と書けますね?
では、これを、先ほどの直線の様に、中学生の形に変形してみましょう。
ほら、分母が零になってしまうので、変形不能なんですよ。
(「分母にゼロを持ってきてはならない」というのは、数学の最も根本的なルールの一つでしたよね)
ですから、直線の方程式は、本来はベクトル方程式で書くべきで、Y軸に平行でない場合に限って、 Y = aX + bの形に変形できたわけです。
これで、直線を、いちいちややこしい「ベクトル方程式」で表したがる理由は分かっていただけましたか?