ロシア企業による日本企業へのM&A(合併・買収)が加速する兆しをみせている。ロシア最大のアルミニウム企業ルサールのオーナー、デリパスカ氏は頻繁に来日、視察を繰り返しているとされ、ガスプロムも日本上陸を検討中という。株安で割安感の出てきた日本企業は「いまが買い時」(大手証券)との見方もあり、ロシア企業の動向から目が離せなくなりそうだ。(藤沢志穂子)
ルサールは極東地域でアルミの精錬所を運営。日本法人を2004年に設立し、日本向け輸出も好調だ。しかも、デリパスカ氏は最近、都内に自宅まで購入したという。その頻繁な来日の狙いは何か。
エネルギー依存度の高いロシア経済だが、プーチン大統領は「遅れている製造業を育成し、依存体質からの脱却を急いでいる」(外務省ロシア課)。大統領の命を受けたデリパスカ氏が、「日本で製造業界とのパイプを作ろうとしている」との見方が大勢だ。
アルミ精錬は大量の電力を消費する。現在は水力発電に頼るが、原子力への移行も検討中とされる。必要な技術を得るため、豊富な資金をてこに「ロシアによる日本の製造業へのM&A(合併・買収)は必至」(三菱商事幹部)との見方は強まるばかりだ。
一方、国営天然ガス会社のガスプロムは昨年11月、日本で初めて総額500億円の円建て社債を発行した。昨年末には米国の大手広報会社に日本を含む全世界の広報を依頼、企業イメージ向上にも励んでいる。いずれも本格的な日本進出を意図したものとみられる。
「ガスプロムが東電を買収する日」(ビジネス社)の著者、中津孝司・大阪商業大学教授は、「09年春を予定する、サハリン2の日本向けLNG(液化天然ガス)供給開始がガスプロム進出の契機になる」とみる。
欧州でガスプロムは、現地企業と合弁で販売会社を設立するなど、川上から川下まで一貫した戦略が基本で、日本でも同様の検討を進めている可能性が高い。先に子会社「ガスプロムバンク」が、資金調達を契機に進出するとの見方もある。
ロシアの石油大手で欧米19カ国でガソリンスタンドなどを展開するルクオイルは、「すでに日本の石油会社や電力会社と提携を協議中」(アタビエフ露日経済協議会理事長)という。
金融では04年に日本に進出した投資会社メトローポルの動きが活発だ。大手建築設計会社の日建設計と組み、モスクワに総額40億ドル(約4300億円)の大型商業施設を造る。スリペンチュック社長は空手の名手でもあり、「極東出身の作家である実父の影響で日本に興味を持った」と話す。
ほかにも日本に関心を持つロシアの金融機関は多く、大和総研の井本沙織・主任研究員は「低金利で欧米より資金調達が容易な上、サブプライム問題の傷も欧米よりは浅いため」とみる。
ノムラ・ヨーロッパ・ホールディングス(ロンドン)は、ロシア企業数社のロンドン市場上場を手がけ、東京市場への上場も誘致する方針。日本の低金利と株安は、ロシア企業が参入しやすい環境を醸成している側面もある。
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