「お産難民」や救急患者の「たらい回し」、医師不足、訴訟リスクの増大、長い手術待ち時間など、“崩壊の危機”にある日本の医療の問題に取り組む超党派の議連「医療現場の危機打開と再建をめざす国会議員連盟」が2月12日、発足した。
医療提供体制の問題には財務、法務、労働、教育などの要素がからみ、厚生労働省だけでは対応に限界がある。このため、議員がイニシアチブを取り、政党や省庁の枠組みを超えた働きかけを進めていく。勉強会や病院現場の視察なども組み、現状の把握に努める。 設立総会後に記者会見をする議員連盟の役員ら=12日、東京永田町の衆議院第1別館(撮影:軸丸靖子) 発起人の1人で幹事長に就いた鈴木寛議員(民主)は、 「国会議員であれば、厚生労働省の意見はすでに承知しているのが前提。(厚労省ではなく)できるだけ現場の声をきく機会を多くとっていきたい。医療は重要課題であり、国民的な議論が必要ということをまず浸透させたい」 と語った。 設立記念講演会では、国立がんセンター中央病院の土屋了介病院長と自治医科大学の高久史麿学長が、病院の現状と医療界全体の問題についてそれぞれ概説した。 病院で起こっている問題として、土屋病院長は (1)お産難民など産科医療・小児医療の崩壊 (2)救急車のたらい回し (3)麻酔科医不足・外科志望者の激減という外科手術の脆弱化 (4)訴訟・訴追リスクの増大による萎縮医療の蔓延 (5)地域医療の崩壊 を挙げた。土屋病院長はまた、 「いま東京には、救急車をいつでも引き受けられる病院はない。なぜか。米国の病院の平均入院日数は日本の半分。同じ病床数の病院でもキャパシティーに倍の差があるということだ。病床数も日本より多い。テレビドラマで見るERと、日本の現状にはこれだけの差がある。日本の医師は労務管理もなされておらず、外科医は徹夜明けでオペに入り、メスを握っている状態だ」 現場からの話に聞き入る国会議員ら=12日、東京永田町の衆議院第1別館(撮影:軸丸靖子) と背景にあるシステムの不備について説明し、効率的な医療提供システムと良い医師を育てていく環境を整えることが必要、と強調した。 一方の高久氏は、開業医有利に偏った診療報酬体系や、訴訟リスクの増大、医療事故調査委員会の問題についても言及した。 「(患者の大病院志向、病院の訴訟リスク回避から)町の中小病院が手術をやらなくなったため、この数年で大病院の手術件数は激増した。癌患者の手術が2か月待ちで、手遅れになって訴訟になるのではと心配する医師もいる。子宮筋腫の手術が8カ月待ちということもある。かつてイギリスで起こったこと(※注)が、日本で現実になってきている」 と警鐘を鳴らした。 〔※注〕 1980年代にサッチャー政権が進めた、市場原理の導入による医療費引き締め政策。結果として患者は入院・手術に1年以上待たなければならない状態が生じた。マンパワーと予算の不足から医師は疲弊、病院も次々に閉鎖された。1997年に誕生したブレア政権はこの方針を転換し、医療費の対GDP比大幅引き上げや医学部定員の増加などの充実策に踏み切っている。
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