幸せにみえた家族に何が起きたのか。東京都足立区の佐々木亨さん(52)方で11日に起きた一家4人死傷事件は、佐々木さんによる無理心中との見方が強まっている。2代続く工作機械の販売業で、子供たちが仕事を手伝うなど家族の仲の良さはよく知られていた。突然の惨劇に周囲の人たちは声を失った。【林哲平、三木幸治、長野宏美】
近所の男性会社員(66)は「扱っている機械が古く、昔からの取引先を相手に細々と仕事をしていた。よく機械の手入れをしている姿を見かけた。寡黙な職人という印象だった」と語る。
長男(18)によると、佐々木さんは事件前日の夜もいつものように晩酌し、11日朝も普段と変わらない様子だった。中学時代の級友の主婦(52)は06年11月の同窓会での亨さんとの会話が忘れられない。病気を患い退院したばかりという母得子さん(85)の世話を妻和子さん(49)が一生懸命してくれることに感謝していたという。「妻の看病がなければ寝たきりで認知症になっていたかもしれないと話していた。温厚で家族思いの彼のしたこととは信じられない」と絶句した。
ただ、昨年6月に電話で話した際「自宅を売ろうかと思っている」と言い、他の友人にも相談している様子だったという。「金銭に困っていたのかもしれない」と話す。取引関係のあった60代の男性も「今年に入りシャッターが閉まっていることが多く経営がうまくいっていないのかと心配していた」と言う。
関係者によると、佐々木さんは地元の中学を卒業後、定時制高校に通いながら今の仕事を始めた。家業を継ぐことは当初不本意だったというが、家庭を得てからはこつこつと働いていた。登山が趣味で仲間と毎月のように楽しんでいたという。
また、近くの飲食店の女性(50)は「息子さんたちが機械の積み下ろしを手伝っている姿を見たことがある。今どき家業の手伝いなんて珍しく、印象に残っていた。夫婦で買い物に出かける姿もよく見かけた」と話した。
◇殺人検挙半数は親族間での事件--07年警察庁
警察庁によると、親族間の殺人事件は、ここ数年増加傾向が続いている。
07年に検挙された殺人事件(未遂も含む)は1052件。このうち子供が親を殺害したり、親が子を殺害するなど親族間の事件は503件で、全体に占める割合は47・8%に上った。この割合は97年に39・1%だったが、04年に45・5%に増加。05年に44・2%と減少したものの06年は46・9%に増加した。
親族間の事件の増加について警察庁幹部は「人間関係の濃密な親族ゆえに、ささいな問題から事件に発展してしまうこともあるのではないか」と話している。【遠山和彦】
毎日新聞 2008年2月12日 東京夕刊