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本郷弥生町の愛らしい美術館・記念館を訪ねて

本郷通りの裏手、東京大学工学部裏塀沿いに、言問通りの弥生坂から弥生門に下る暗闇坂...

本郷通りの裏手、東京大学工学部裏塀沿いに、言問通りの弥生坂から弥生門に下る暗闇坂。その暗闇坂に面して、愛すべき小さな3つの私設美術館・記念館が並び立つ。弥生美術館、竹久夢二美術館、立原道造記念館の3館だ。色づく秋の訪れる気配の中、慌しい日常を逃れて、異質な刻の流れる空間に、身をゆだねてみたい。 (織戸雅史)

弥生美術館

  文・弥生2-4-3 TEL:3812-0012
  開館時間 午前10時~午後5時(入館は午後4時30分まで)
  月曜休館 一般800円(竹久夢二美術館もご覧いただけます)

弥生美術館の淵源は、在野の弁護士・鹿野琢見氏と当時一世を風靡していた挿絵画家・高畠華宵が描いた一枚の絵との出会いに始まる。昭和4年(1929)、9歳の鹿野少年が深い感銘を受けたとされる高畠華宵の絵とは、「さらば故郷!」(雑誌『日本少年』掲載)という題材のものであった。それから36年後の昭和40年(1965)、ある雑誌の記事で、明石・愛老園に余生を送っている高畠華宵の生存を知り、二人の間に文通と親交が始まった。鹿野は自宅に「華宵の間」をつくり、華宵は何度も上京。「華宵の会」の発足、上野松坂屋での展覧会など、再び脚光を浴びた華宵も、翌41年78歳の生涯を閉じた。華宵の死から18年後の昭和59年(1984)6月1日、華宵のコレクションを公開すべく念願の弥生美術館創設が果たされたのである。
いま弥生美術館で開催中の《『少年倶楽部』から『りぼん』まで ふろくのミリョク☆展》は、幼少年少女雑誌付録のおよそ一世紀にわたる歴史を実物・復元で辿るユニークな展示。併せて、先行する明治期紙おもちゃやハイカラの西洋紙おもちゃも展示されている。わが国固有の錦絵・版画の伝統や手先の器用さが、いかにこれらの付録に生きていることか。また昭和初年の少年雑誌がかけそばのおよそ4~5倍の価格であり、富裕層の子息以外、毎号親に買ってもらうことなどまずかなわなかったことなどが、案内いただいた外舘恵子学芸員のご教示で知った。写真右の「軍艦三笠の大模型」が、いかに大きく精巧であるかは、実際の展示を見て驚いていただきたい。11月11日(日)午後2時からは、ギャラリートークを開催。

『少年倶楽部』から『りぼん』までふろくのミリョク☆展 開催中

開催中~12月24日(月・祝)
展示企画を担当した弥生美術館学芸員の外舘恵子さん
展示企画を担当した弥生美術館学芸員の外舘恵子さん。
動き出す人造人間『日本少年』(実業之日本社)/昭和7年2月号付録
動き出す人造人間『日本少年』(実業之日本社)/昭和7年2月号付録
オートジャイロ『日本少年』(実業之日本社)/昭和7年10月号付録
オートジャイロ『日本少年』(実業之日本社)/昭和7年10月号付録
ガスマスク『日本少年』(実業之日本社)/昭和8年3月号付録
ガスマスク『日本少年』(実業之日本社)/昭和8年3月号付録
弥生美術館所蔵「さらば故郷!」
弥生美術館所蔵「さらば故郷!」
軍艦三笠の大模型『少年倶楽部』(講談社)/昭和7年1月号付録 中村星果 設計
軍艦三笠の大模型『少年倶楽部』(講談社)/昭和7年1月号付録 中村星果 設計
ファッション・ドール&ワードローブ『りぼん』(集英社)/昭和54年2月号付録 陸奥A子 画
ファッション・ドール&ワードローブ『りぼん』(集英社)/昭和54年2月号付録 陸奥A子 画
花のフランス人形『なかよし』(講談社)/昭和37年1月号付録 牧美也子 画
花のフランス人形『なかよし』(講談社)/昭和37年1月号付録 牧美也子 画
チャーミング・ラック『りぼん』(集英社)/昭和55年10月号付録 陸奥A子 画
チャーミング・ラック『りぼん』(集英社)/昭和55年10月号付録 陸奥A子 画
るみちゃんカレンダー『少女』(光文社)/昭和26年1月号付録 松本かつぢ 画
るみちゃんカレンダー『少女』(光文社)/昭和26年1月号付録 松本かつぢ 画

ふろくのミリョク☆展連動出版!!
『少女雑誌ふろくコレクション』

0710_topics_03_11.jpg 弥生美術館 中村圭子・外舘恵子 編
河出書房新社刊 定価1575円 10月17日発売

陸奥A子、田渕由美子、太刀掛秀子の「乙女ちっく三羽烏」はもちろん、内藤ルネ、田村セツコ、水森亜土等まで。楽しくて、可愛くて、おしゃれなふろく満載!!一九〇〇年代から『りぼん』まで、少女雑誌ふろくの足跡をたどる。

2008年1月3日(木)より時代を席巻した挿絵画家展いよいよ開催
生誕120年記念 カリスマ挿絵画家・高畠華宵展
少女よ、永久にそのよき日を愛せ・・・

高畠華宵・画「紅薔薇」(『少女画報』大正15年5月号 口絵)弥生美術館所蔵
高畠華宵・画「紅薔薇」(『少女画報』大正15年5月号 口絵)弥生美術館所蔵
弥生美術館 中村圭子・外舘恵子 編
河出書房新社刊 定価1575円 10月17日発売

陸奥A子、田渕由美子、太刀掛秀子の「乙女ちっく三羽烏」はもちろん、内藤ルネ、田村セツコ、水森亜土等まで。楽しくて、可愛くて、おしゃれなふろく満載!!一九〇〇年代から『りぼん』まで、少女雑誌ふろくの足跡をたどる。

竹久夢二美術館

  文・弥生2-4-2 TEL:5689-0462
  開館時間午前10時~午後5時(入館は午後4時30分まで)
  月曜休館 一般800円(弥生美術館もご覧いただけます)

弁護士である鹿野琢見氏の竹久夢二コレクションを展示・公開する竹久夢二美術館は、都内唯一の夢二作品鑑賞の場だ。日本画・油彩・書・原画・スケッチ・版画・デザイン・著作本・装幀本・雑誌、また書簡をはじめ遺品や資料など約3,300点を所蔵、200~250点の作品を常設展示し、3ヵ月ごと年4回の企画展を開催している。生涯アカデミックな画壇に属さず、市井の作家として制作と生業に勤しんだ竹久夢二には、数多くの作品と、必ずしも究め尽されてはいない巷説が残され、それがまた大きな魅力を形成している。竹久夢二美術館は、豊富な夢二作品の常設展示館であるとともに、その生涯と芸術の研究施設として、ゆかり深い本郷の地で、創設17年目の秋を迎えた。

夢二クラシック
~古きよき日本への憧憬~
開催中~12月24日(月・祝)

早く昔になればよい――竹久夢二美術館で展示中の《夢二クラシック》のガイドに引かれた明治43年(1911)2月19日の『夢二日記』の言葉に、日露戦争を経て絶対化する日本資本主義体制下の逼塞感を見るのはうがち過ぎであろうか。ともあれ、大逆事件を挟んで、行き詰まりかけた自然主義に対する反逆として生まれた「パンの会」に代表されるロマン主義的運動は、のちに木下杢太郎が回想してみせたように、ヨーロッパ印象派への憧れと同時に、「浮世絵などを通じ、江戸趣味がしきりに我々の心を動かした。で畢竟パンの会は、江戸情調的異国情調的憧憬の産物であつたのである。」(木下杢太郎「パンの会の回想」)。こうした時代の空気に、竹久夢二も無縁であったとはいえまい。と同時に、夢二が回想し画題とした「子供の時」が、時空を超えていわば「父母未生以前の面目」にいかに肉薄しようとしたかをその画業に探る本館ならではの企画展となっているのは秀逸だ。11月11日(日)15:00~16:00には学芸員によるギャラリートークが開催予定。
谷口朋子さん
展示企画を担当した竹久夢二美術館学芸員の谷口朋子さん。本企画展の展示作品「筒井筒」の前で。『伊勢物語』の一挿話である「筒井筒」は夢二なじみの画題で、明治38年(1905)、『中学世界』に第一入賞したのも、同画題であった。ちなみにこの応募時に、初めて竹久茂次郎は夢二の号(ペンネーム)を名乗ったといわれる
竹久夢二・画『下町物語』(表紙)大正5年
竹久夢二・画『下町物語』(表紙)大正5年
竹久夢二・画『筒井筒』(木版挿絵)(『新訳絵入 伊勢物語』より)大正6年
竹久夢二・画『筒井筒』(木版挿絵)(『新訳絵入 伊勢物語』より)大正6年

新春2008年1月3日(木)より東京発の本格展示紹介!!
夢二と謎の画家・小林かいち展
~大正ロマンから昭和モダンへ、花開く絵葉書・絵封筒の美~
同時開催 竹久夢二 新春美人画展

その存在が謎に包まれた小林かいち。東京の美術館において、本格的にかいち作品を紹介する初めての展示は、夢二とかいち、二人が織りなす抒情的な大正ロマンと昭和モダンの美を堪能する
会期:2008年1月3日(木)~3月30日(日)
開館時間:午前10時~午後5時(入館4時30分まで)
小林かいち・画 絵葉書「二号街の女」より1920年代
小林かいち・画 絵葉書「二号街の女」より1920年代

立原道造記念館

0710_topics_03_22.jpg   文・弥生2-4-5 TEL:5684-8780
  開館時間午前10時~午後5時(入館は午後4時30分まで)
  月曜休館 一般400円(弥生美術館・竹久夢二美術館との3館共通券1,100円)

昭和14年(1939)3月29日、わずか24歳8ヵ月の生涯を閉じた詩人・建築家立原道造の58回目の命日に開館した立原道造記念館。開館の趣旨には「立原の作品世界を通しての対話を皆様と交わすことによって、新たな視点からの立原像を探求し、より多くの人たちに伝えてゆきたい」と謳われている。名誉館長に堀辰雄夫人・堀多恵子氏、理事長に鹿野琢見氏をいただく。館の設計は江黒家成氏。写真左は日本橋にあった立原家の道造居室(屋根裏部屋)を模したコーナー。机上に愛用のランプが見える

立原道造の世界4 開催中
生前未発表詩・物語を中心として[前期]
開催中~12月24日(月・祝)


35年ぶりに刊行が始まった『立原道造全集』(全5巻 筑摩書房)に歩を併せて、企画展示を開催中の立原道造記念館。11月末刊行予定の第2巻収録作品に合わせて、4種の手づくり詩集『さふらん』、『日曜日』、『散歩詩集』、『ゆふすげびとの歌』および、同時期作の生前未発表詩・物語草稿を中心として、書簡・絵画・書籍等の初公開を含む関連資料を展観している。多くの文学青年が必ずや遭遇し、震撼され、忘れてしまう抒情的な世界。とりわけ中原中也や立原道造に代表される言葉の音楽性を重視した近代詩がもたらす感性は、のちの詩壇を決定的に支配し、かつ抗いがたい感情規範を形成したと思われる。本展展示が明かす立原の詩業の綿密な結晶過程。口語自由律短歌、そしてソネット(14行詩)へ、また建築家的デッサン・エスキースを経て結実する創作のダイナミズムがわたしたちの目の前に明かされる。年をまたいで前後期2回にわたって開催される本展で、短くも強靭な精神の営みを目の当たりにされたい。
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立原道造 浜町公園にて 1938年(昭13)
立原道造 浜町公園にて 1938年(昭13)

2008年1月3日(木)より未完詩集「優しき歌」関連詩稿
立原道造の世界4
生前未発表詩・物語を中心として[後期]


『立原道造全集』第2巻[第3回配本](筑摩書房)収録の作品から、未完詩集『優しき歌』収録予定の詩稿および、同時期作の生前未発表詩・物語の草稿を中心とし、書簡・絵画・書籍等の初公開を含む関連資料を展観することによって、立原の世界を検証する。

会期:2008年1月3日(木)~3月23日(日)
開館時間:午前10時~午後5時(入館4時30分まで)
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画像は筑摩書房ホームページより

暗闇坂


江戸時代、のちに東大構内となる加賀屋敷の北裏側と片側寺町の間の坂。その名称から樹木の生い茂った薄暗い寂しい坂であったと考えられている。東京23区内では暗闇坂と呼ばれる坂は12ヵ所ほどあるとのことだが、文京区内には、白山5丁目の京華女子高校の裏側にもある。
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本欄掲載の作品画像・作家肖像は、すべて弥生美術館、竹久夢二美術館、立原道造記念館の許諾のもとに提供され、また各館公式ホームページよりダウンロードしたものです。各館URLは以下のとおり 弥生美術館/竹久夢二美術館 http://www.yayoi-yumeji-museum.jp/ 立原道造記念館 http://www.tachihara.jp