福田康夫首相が、有識者らによる直属機関の設置方針を相次いで打ち出している。消費者行政の一元化など施策の柱に掲げる課題を検討するもので、官邸主導で政権浮揚を図ろうとの思惑がうかがえる。
一月には年金や医療、介護など社会保障制度の在り方を見直す「社会保障国民会議」をスタートさせた。少子高齢化が進展する中で、持続可能な社会保障制度の検討が進められる。さらには各省庁にまたがる消費者行政の一元化を中心に検討する「消費者行政推進会議」、七月に開催される主要国首脳会議(北海道洞爺湖サミット)等をにらんだ環境問題の懇談会などだ。
いずれも大きな課題であり、国民の関心も高い。首相が施政方針演説で示した基本方針や姿勢を具体化するものである。何としても軌道に乗せたいところだろう。
首相は消費者行政推進会議で検討する新組織の在り方について、夏ごろとしていた取りまとめ時期を四、五月をめどに早めた。中国製ギョーザ中毒事件による国民の関心の高まりを背景に、権限が狭められることに強い警戒感を抱く関係省庁の抵抗を封じ、早く具体像をまとめようとの意図が感じられる。
温室効果ガス削減の国別目標や、排出権取引の国内導入の是非を議論する環境問題の懇談会も同様だ。大幅な削減目標の設定に慎重な経済界の代表をメンバーに入れ、温暖化対策の国民運動的な機運を盛り上げたいとする。
「福田カラー」を鮮明にして官邸主導で難題に挑もうとする意欲は評価できよう。ただ、メンバーの人選が短期間で決められるなど、付け焼き刃的な印象はぬぐえない。利害が絡み合うだけに、実現へ向けた福田首相のリーダーシップが問われる。
一方で、安倍晋三前首相から引き継いだ公務員制度改革に対する福田首相の意欲は乏しいといわれる。
政官癒着による不祥事や、閉塞(へいそく)的なキャリア制度など疲弊した公務員制度の見直しは急務だ。有識者による政府の「公務員制度の総合的な改革に関する懇談会」が首相に提出した報告書では、新設する「政務専門官」以外の国家公務員と国会議員の接触に厳格なルールを設けることや人事を一元管理する「内閣人事庁」創設などを示している。
報告書の内容に賛否が渦巻く。首相は抵抗が大きく、前政権の残した課題に熱が入らないのだろうが、公務員制度改革は官僚主導から政治主導のシステムへの転換を目指す長年の懸案だ。おざなりにするようでは改革に消極的ととられても仕方あるまい。
東京で開催された先進七カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)で、日本は発展途上国の地球温暖化対策を支援する基金の創設を米国、英国と共同提案し、フランスなど他の参加国に協力を呼び掛けた。
福田康夫首相は先に、途上国の環境対策を支援するための基金創設を目指す考えを示している。米国ではブッシュ大統領が一月の一般教書演説で、クリーンエネルギー利用促進に向けた二十億ドル(約二千百億円)規模の国際基金を提唱した。英国も八億ポンド(約千七百億円)の環境基金設立を打ち出している。
日米英が提案した新基金構想は、これらを世界銀行を受け皿に一本化するとともに他国の資金も募る。途上国に、環境負荷の少ないクリーンエネルギーや省エネなどの設備、技術を普及させ、温暖化対策を加速させようという狙いである。
温室効果ガスの排出量削減で成果を挙げるには、京都議定書を拒否した米国とともに、急速な経済成長で主要排出国になりながら途上国ゆえに削減義務がない中国やインドなどの取り組みが欠かせない。新基金は途上国の温暖化対策を進めると同時に、二〇一三年以降の温暖化対策の国際的枠組みとなる「ポスト京都議定書」へ、すべての主要排出国の参加を促す手だてともなり得るだろう。
今回のG7では全体の一致までには至らなかったが、環境問題が大きなテーマとなる七月の主要国首脳会議(北海道洞爺湖サミット)を前に議長国日本が米英両国と具体的な対策を示した意義は大きい。今後、他の四カ国への働き掛けが続くが、互いの意見を踏まえながら有効な基金として途上国支援の輪を広げるよう望みたい。
(2008年2月11日掲載)