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【暮らし】

ハケンの反撃<2> 『手口をあばく』 もう だまされない

2008年2月11日

 「過労死基準を超えて働かないと月額三十二万円は稼げない。完ぺきにだましてやがった」

 大手日雇い派遣「フルキャスト」が出資する自動車製造請負・派遣会社「フルキャストセントラル」の元派遣労働者・小谷誠さん(47)は憤る。

 「月収三十二万円以上」−。厚遇をうたう派遣会社の広告にひかれ、二〇〇六年一月、宮城県石巻市から上京。派遣先の東京都日野市の日野自動車で働き始めた。時給千二百円。昼勤だった最初の一カ月は、広告にあった残業がなく、額面二十万円を切った。「子どもに不自由させたくなくて、東京に来たのに」と唇をかんだ。

 職場には「だまされた」地方出身者が大勢いた。「東北や九州などは仕事がない。仕事があっても時給は高くて八百−九百円。千二百円なら飛びつきますよ」と小谷さん。

 雇用情勢が厳しい地方から来て、好景気の大都市圏で働く派遣労働者が増加している。大都市と地方、正社員と派遣労働者。二重の格差に苦しむ地方出身者は多い。

 格差につけこむ手口は「厚遇広告」だけではない。派遣会社は最初の給料までお金がないことを見透かし、派遣先までの交通費を支給、前借りも世話してくれた。「派遣会社も最初はやさしい」と小谷さん。しかし給与は広告通り支払われず返済は難しい。結局会社に縛り付けられる。

 小谷さんは、その境遇を逆手にとり、ユニオンを立ち上げ委員長として募集広告問題などで経営側を責め立てた。「『(募集広告の)根拠はない』という発言も引き出し、労働条件を細かく提示することも認めさせた」

 職業安定法は虚偽広告の場合、六月以下の懲役、三十万円以下の罰金を定めるが、誇大広告や紛らわしい広告の規制はない。この件も虚偽とまでいえない“グレーゾーン”だった。

 昨年八月、小谷さんは日野自動車から直接雇用され期間工になった。有期雇用で身分は不安定だが、年収が約百五十万円上がった。「闘えば勝てることが分かった。苦しむ派遣労働者を助けるために、これからも、派遣業界の矛盾を暴いていく」

    ◇

 「派遣労働者は低賃金なのに、正社員より課税範囲が広い。不公平だ」

 東京ユニオン執行委員長の渡辺秀雄さん(60)はみけんに鋭いしわを寄せて訴える。

 正社員は交通費が給与と別に支給され、月十万円まで非課税。一方、派遣労働者は交通費が支給されない場合が多い。支給されても「勤務地が転々として捕捉しにくい」などの理由で所得に含めて計上され課税される。年十七万円の交通費がかかった派遣社員の場合、九千四百円も余分に納税することになる。

 東京ユニオンは二〇〇〇年から「取られすぎた税金を取り戻そう」と確定申告の時期に税還付キャンペーンを展開。今月一日、二十人が参加し確定申告書の書き方を教わった。各自が地元の税務署に申告するという。

 しかし、国税庁は一般的な正社員が得る「通勤手当」以外は交通費非課税を認めない方針。それでも渡辺さんは「大勢で請求すれば国税庁を動かす力になる」と、運動を続ける考えだ。

 渡辺さんは「正社員を前提に法律が解釈され、派遣労働者は無視されている」と、法の機能不全を指摘。小谷さんも「派遣法改正だけでは救えない問題もある。職業安定法を改正し、誇大広告取り締まりを強化してほしい」と訴える。 (服部利崇)

  =次回は十四日掲載

 

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