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社説(2008年2月11日朝刊)

[推進派市長当選]

「やむを得ぬ」苦渋の選択

 米軍再編に伴う米空母艦載機移転の是非が最大の争点となった山口県岩国市の出直し市長選で、移転推進を訴えた前自民党衆院議員の福田良彦氏が、移転反対派の前市長、井原勝介氏を退け、初当選した。

 今回は市財政が厳しい局面を抱えた中での選挙となり、市民にとって苦渋の選択となった。地域経済が冷え込む中で、移転反対か地域振興かの厳しい選択を迫られ、地元経済界などの支援を受けた福田氏が得票を伸ばした。

 選挙結果からは、岩国移駐に反対する市民も福田氏支持に流れたことがうかがえる。政府は移転を積極的に受け入れる民意だと見るべきではない。

 政府の強権的な圧力が明確になる中で、再編交付金による地域経済振興などを前提とした条件付きのやむにやまれぬ選択だと受け止めるべきだ。

 米軍再編が計画通りに実施されると米空母艦載機五十九機が岩国基地に移駐する。今選挙の結果は今後の米軍再編にも影響を与えそうだ。

 厚木基地所属の米空母艦載機の移駐をめぐって民意は揺れ動いた。合併前の市議会は全会一致で移転反対を決議し、二〇〇六年三月の住民投票では反対票が有効投票の89%と圧勝。合併に伴う同四月の市長選でも井原氏が当選し、二度も移駐反対の民意を示した。

 これに対し政府は「安全保障問題は国の専権事項」と主張し、米軍再編を推進する構えを崩さなかった。米軍再編推進法などを盾に、露骨な「アメとムチ」政策で受け入れを強く迫った。

 政府が移転反対を理由に新市庁舎建設の補助金約三十五億円を凍結したことで市民の間に動揺が広がった。昨年末には補正予算案が四度否決されるなど市長包囲網が着々と築かれた。

 今選挙で福田氏は市財政の立て直しや地域経済振興を訴え、日々の生活を重視する姿勢を強調。井原氏は空母艦載機移転の問題を主軸に据えて訴え、草の根の選挙運動を展開した。

 福田氏の当選は、背に腹は代えられぬと市民が暮らしを重視した結果だろう。移転を無条件で全面的に受け入れたわけではない。背景には移駐反対だけでは済まない厳しい現実もあろう。

 基地反対派が移転反対を正面から訴えたのに対し、移転容認派は地域振興の訴えに力を注いだ。米軍基地を抱える沖縄の選挙と同じ構図である。

 政府の強権的な政策に翻弄される岩国市の姿は、沖縄の基地所在市町村や県の姿とも重なって見える。厳しい選択を強いられた市民の姿は痛々しい。福田氏当選は移設推進の一言では言い尽くせまい。民意を読み誤ることなく今後の市政運営に反映させてほしい。



社説(2008年2月11日朝刊)

[ギョーザ中毒]

日中連携で早期究明を

 中国製冷凍ギョーザによる中毒事件が表面化してから十日以上になる。日中両政府が相互に調査団を派遣するなど原因究明に努めているが、高濃度の有機リン系殺虫剤「メタミドホス」や「ジクロルボス」がどの時点で混入したのか、原因はまだはっきりしない。

 ただ、大阪府枚方市のスーパーから回収した密封状態の袋の内側からメタミドホスが検出されたことで、製造、包装の際に混入したとの見方が強まっている。

 福田康夫首相は衆院予算委員会で「だんだんと核心に迫っている」と答弁。町村信孝官房長官も、中国で混入したと考えるのが自然、との認識を示した。

 一日も早い原因究明のためには中国政府の積極的な協力が欠かせない。

 中国の検疫当局幹部は「日中友好の発展を望まない少数分子」による犯行の可能性に言及。来日した幹部は「生産体制に問題はなく、個別問題だ」と述べ、中国食品の安全性を強調した。

 厚生労働省によると、二〇〇六年に中国から輸入した食品は約四百九十三万トン。冷凍食品は二十万トン余りにのぼる。中国内陸部の食品工場は、日本の「台所」になっており、日中の相互依存関係は深まるばかりだ。

 その一方で、中国製食品の安全性に対する不安や不信感が高まっている。県内のスーパーなどでも中国産の野菜や冷凍食品の売り上げが減少し、安全や安心をうたう国内産の販売に切り替える動きが加速している。

 日本の連日のギョーザ中毒報道に対し、中国メディアの中には強い反発も生まれているという。

 今回のギョーザ中毒事件は、日中間に横たわるさまざまな問題を顕在化させたともいえる。

 相互不信の不幸な関係を絶つためには、なによりも両国政府の緊密な連携による食の安全確保が重要だ。

 国内での捜査にあたっては、慎重にあらゆる可能性を探る努力を怠ってはいけない。日中捜査共助による一日も早い解決を期待したい。


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