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2008年02月11日(月曜日)付

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希望社会への提言(16)―年金は税と保険料を合わせて

グラフ

社会保障の給付額の内訳

・基礎年金をすべて税で賄うのは非現実的だ

・税の投入は、年金より医療や介護を優先させる

 老後を支える年金について、改革の方向を2回に分けて考えたい。

 制度がはじまって66年。いまや7000万人が保険料を払い、3000万人が年金を受けとる。その総額は43兆円となり、高齢者の収入の7割を占める。年金しか収入のない人も6割にのぼる。

 その年金の信頼が揺らいでいる。保険料を徴収する社会保険庁が、年金記録をでたらめに管理してきたためだ。

 保険料をきちんと集め正確に記録しておかなければ、年金は成り立たない。社保庁は2年後に新組織へ移るが、それまでに組織体質を根底からたたき直し、徴収と管理を正しくできる体制をつくる。それが、すべての大前提である。

 

 

 そのうえで、安心できる年金とするために制度をどう改めるか。改革の方向には大きく二つの選択肢がある。

 いまの保険方式を土台に改革を進めていくか。それとも、基礎年金は保険料の徴収をやめ、すべて税金で賄う方式へ切り替えるか。この二つである。

 経済界は後者の税方式へ移行するよう主張しており、日本経済新聞も税方式を先月提言した。民主党も税を財源にした最低保障年金を提案している。

 いま340万人いる「未納・未加入」の問題がなくなる。保険料を集める必要がなくなり、社保庁の仕事が半減する。こうした点が税方式の大きな長所だ。

 しかし、厄介な難問も無視できない。この選択は悩ましいが、保険方式を維持しつつ改革していく前者の方がより現実的だと考える。

 最大の理由は、社会保障の先行きを全体として見渡したとき、まず医療と介護に優先して税金を振り向けていかなければならないという点だ。

 上のグラフをご覧いただきたい。社会保障に占める年金の割合はだんだん小さくなっていき、反対に医療や介護などが膨らんでいく見通しだ。予期できないリスクに備える医療や介護は老後の安心を支える基盤であり、社会全体でカバーし合うのが適している。

 現状の医療と介護を維持するだけでも、高齢化により20年後には今より30兆円以上も費用がかかる。財源は保険料と税金だが、必要になる税金を消費税で賄うなら、6〜7%分の増税が避けられないだろう。将来の増税は、まずこうした分野へ投入していくべきだ。

 基礎年金をすべて税で賄うとすると、それだけで消費税なら5〜7%の増税が必要だ(政府の経済財政諮問会議の試算)。医療や介護の負担増にこれが加われば、消費税の引き上げ幅はゆうに10%を超える。いくら福祉のためでも、これだけの増税を国民が認めるだろうか。

 税方式へ移行すれば保険料は払わなくてよくなるから、国民全体としての負担に変わりはない。ただ、負担が給付に結びつく保険料に比べ、増税に対しては拒否感が極めて強いのが、ここ30年の経験則だ。それを考えると、保険料を税金へ切り替えるのは難しくないか。

 いま基礎年金の財源は3分の1が税金で、09年度には2分の1へ上げることになっている。税の投入はその程度にし、保険料との二本柱でいくのが現実的だ。

 

 

 税方式に切り替えるためには、ほかにも大きな問題がある。

 ひとつは、これまで保険料を納めてきた人と、納めなかった人の公平をどう保つかだ。たとえば、保険料を納め終えた年金の受給世代は、消費税の増税によって二重払いを迫られる。また、年金をもらえないお年寄りにとっては、増税分だけ取られ損になりかねない。

 こうした不公平を避けるため、前者には年金支給額を増やし、後者のためにもそれなりの手当てをするとなると、さらに大きな財源が必要になる。

 現役世代にしても、保険料を払ってきた実績に応じて将来受け取る年金に差をつけるなら、すべての人が満額の年金を受け取れるようになるまでに40年以上もかかる。つまり「未納・未加入」問題はすぐ解決するわけではないのだ。

 また、企業が社員のために半分負担している保険料をどうするかも大問題だ。負担をなくしたいのが経済界の本音のようだが、社会連帯の輪から企業が抜けてしまうと社会保障は支えていけない。保険料に代わる新たな税をつくり、企業から徴収することが可能だろうか。

 以上のように、両方式には一長一短がある。まずは、老後を支えるもう一つの柱である医療や介護へ税を投入していく。そのうえで、さらに年金の保険料を増税へ置き換えてもいいという国民合意ができるのなら、そのとき税方式へ移行してもいいのではなかろうか。

 さて、保険方式で年金制度をどう改革するか。次週は私たちの案を示そう。

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