最終講義 2005年1月28日 3:30−5:00
場所:神戸大法学研究科
「わが(学問的)闘争」Meine(wissenschaftliche) Kaempfe 阿部泰隆
ヒットラー「Mein Kampf」、イエーリング「権利のための闘争」(Rudolf von Jhering、Der Kampf ums Recht)と合わせて、「学問と社会の発展のためのわが諸闘争」(Meine Kaempfe ums Recht insbesondere Verwaltungsrecht und die gesunde Entwicklung unserer Gesellschaft)。私がヒットラーであるわけではない。
この3月末で定年になる機会に、私の学問闘争を振り返る。日本の既存の抵抗勢力を打破しなければならない。複数あるので、マイネ・ケンプフェ。
一 阿部の生い立ち
1942=昭和17年3月30日、福島県の麗峰、吾妻山の麓、荒井村生まれ。喘息で病弱で苦労した。30センチ積もった雪の中、吾妻降ろしの寒いところを喘息の治りかけで苦しい思い
本当は4月5日生まれ。思いこみはいけない。今から戸籍を訂正?、
学校の想い出はろくなものがない。イナゴ取り、悪夢の修学旅行
職業家庭は過酷な労働
阿部の成長はアカガエルのおかげ
戦争を恨む
君が代・日の丸の強制に反対。T25
こうした体験は阿部の行政法理論にも深く影響している。三つ子の魂、百までである。 受験勉強
相変わらずぜんそくで人生の先なし 授業は寝ていたから、寝ている学生に文句は言わない。弱者には優しいが、努力しない者には甘くない。すべて基準は、阿部泰隆本位主義
田中先生に拾ってもらった。先生は寛容。人間はやらせてみるべきだ、最初に高いバリアーをおくべきではないという信念。弟子に甘い。
ぜんそく治癒 減感作療法
医者の多くは藪だ。しかし、社会に役立ってくれる立派な医師がいる。公益への寄与は報いられない。
二 研究者としての出発点
研究と称するものを始めたが、何をやって良いのかわからない。外国法の基礎さえないのに、最初から外国法の先端を研究するのはしょせん無理、
ドイツ法からフランス法へ潜り込む
助手論文「フランス行政訴訟論」
失敗作。フランス行政法は遅れている。学ぶ価値は少ない。
しかし、価値がないと分かることも学問。おかげで、神戸大学に採用され、博士。
『フランス行政訴訟論』(有斐閣、1971年)
留学直前、神戸法学雑誌に、同時に2つを載せた。
11.「比例原則と取消判決等の事後処理」神法21巻3・4号(1972年3月)147〜163頁、計17頁 (T、4所収)
12.「対物処分の問題点」神法21巻3・4号(1972年3月)164〜187頁、計24頁
このうち、対物処分のほうはほかに書く人もおらず、国会図書館で検索するとこの論文だけである。そこで、ポルノ事件で意見書を頼まれた。30年後の収穫。
その改訂版が「誤解の多い対物処分と一般処分」自研80巻10号(2004年10月)26−53頁である。
もう一つの論文は、
13.「抗告訴訟における仮救済制度の問題点(一)〜(三・完)」判評162号(=判時670号、1972年8月)108〜118頁、判評164号(=判時676号、1972年10月)108〜111頁、判評165号(=判時679号、1972年11月)108〜119頁、計27頁 (T、2所収)として、判例時報に依頼した。
さらに、 行政財産の使用許可の撤回と補償の問題でジュリストに最初に持ち込んだ。最高裁昭和49年判決で逆転。社会貢献。
19.「行政財産使用許可の撤回と損失補償」ジュリ435号(1969年10月)
75〜81頁、計7頁 【T,7所収】
フランスにあきれて、ドイツに留学(1972−74年)。
フンボルト財団と六甲台財団の支援。
バッホフ先生、権利救済の実効性を確保するシステムを勉強。特に、義務づけ訴訟
田中先生などを批判。
それが22.「義務づけ訴訟論」『田中二郎先生古稀記念論集 公法の理論下U』(有斐閣、1977年9月)2103〜2182頁、計80頁 (T、9所収)である。さらに、「義務づけ訴訟論再考」田中二郎先生追悼論集 『公法の課題』(有斐閣、1985年1月)3〜49頁、計47頁、【I,9所収】を書いた。これは今回の行訴法改正で、義務付け訴訟が明文化されるのに参考になったはずである。
2度目の留学先は、ドイツ、フランス、アメリカ(1979−80年)。バークレーに半年いた。思想はアメリカナイズされてきた。
三 その後の学問
まず外国との交流
1993年 ドイツ・トリア大学客員教授。
台湾で、数回講演・研究会発表。
318."Vicious Circle" of the Waste Disposal Disputes in Japan: How it Happened and How it should be overcome(台湾、土地管理研究所報告原稿)
韓国では一回 「法治国家充実のための法改革、行政訴訟改革−日本における阿部泰隆の提案−韓国公法学会報告−」神法53巻3号(2003年12月)1−35頁。
ドイツでは何度か
20.Eine Skizze ueber die Entwicklung des Umweltschutzrechts in Japan, in:Recht in Japan, Heft2, 1977, p.19〜35(Alfred Metzner Verlag)、計17頁
35.Einige Aspekte des Umweltschutzrechts in Japan, in:Alexander v. Humboldt−Stiftung,Wissenschaftliche Zusammenarbeit und Austausch zwischen Deutschland und Japan,1979,Bonn, p.175〜177、計3頁
45.Einige Aspekte des Umweltschutsrechts in Japan,in: Neue Entwicklungen im oeffentlichen Recht,(Herausg) T.Berberich, W. Holl,K.−J. Maaβ,Kohlhammer,1979. p.371〜384、 計14頁233.Entwicklung und heutige Aufgabe des Umweltschutzrechts in Japan (Helm.von Helmut Coing u.s.w), J.C.B.Mohr(Tuebingen), 1992, S.375-393.
367.「Ueber die Justizreform und Reform des Verwaltungsrechtsschutzes insbesondere der Umweltschutzklage」日独シンポジウム報告書(2000年フライブルクで開催)、Kobe law review NO.35 (2002年)
英文・独文論文で10数編集めた私家版の論文集がある。多少残部があるので、少しでも読む気がある人には先着順で差し上げる。外国語の論文では英語とドイツ語、環境法が多いが、行政法一般もある。
日本語の論文は、単独著26冊くらい。共同編集著12冊、論文数約400、判例解説120以上。HP掲載。
すべて現行法の改善である。
領域は、行政法のシステム、行政争訟、国家賠償、社会保障法、損失補償、地方自治、 公務員法、消費者法(ほんの少し)、都市計画法・土地法、環境法・廃棄物法が多い。
四 学者の成果は
1 法律学の成果の評価方法は?
何の影響力もない論文が多すぎる。
名誉教授の推薦。「同人は,本学在職中において,教育・研究,大学行政及び学界等多方面にわたり多大の貢献をしてきたものであり,その功績はまことに顕著であると認められる。」しかし、本当に貢献したのか、何ら実証的な証明がない。
それがあとにどれだけ影響を与えたかという視点から見た、成果主義が大切である。
学者は学問をやれば、学界に働きかけて、学界を動かし、立法、裁判を動かすべきである。そうしてはじめて業績である。
闘争の場は、研究=学界、立法、裁判、阿呆なこれまでの法的思考、抵抗勢力である。
学界への影響力も、自分の力によるものが大切
2 御用学者をやめて(やめさせられて?)
なぜ御用学者になれなかったか。
合併処理浄化槽の設置義務づけに関する厚生省の会議、時期尚早と発言すると偉くなる。しかし、その人は、その後も時期を作らない。学者は時期をつくるべき。
関経連 地方自治・道州制の研究会 御用学者扱い かんけいねー
大阪府の地方自治研究会 勝手に検閲されて、大阪府に有利に原稿を直されていた。頭に来てやめた。
肩書き、履歴に、審議会委員を入れているのは自ら御用学者であることを自白しつつ、しかし、自覚がないことを天下に宣言しているようなものである。学者はもっと自覚しないと、行政法学の再生はない。
ある御用学者。民法専攻で環境や情報公開などやったことがないのに、それらの審議会の会長になり、役人の言うとおりに議事運営をする。瀬戸内海は全部埋め立ててもよいと言った。水はどっちに流れるのだろう?
これだから、学者は馬鹿にされる。都合よく使われる。恥だと思わない鈍感さ!!
名誉教授の功績調書に、審議会委員を入れるのはやめるべきだ。社会貢献・功績ではなく公害である。役人への貢献にすぎない。
勲章の基準も、こうした役人への貢献が基準となっている。
小生は判例を変えたら、大功績と思っている。
五 我が闘争 分野ごとに
1 アベゲート
人が殺されてから考える、事後解決の刑事法よりも、事前予防の行政法の発想が大切
2 嫌煙権 一九八〇年アメリカ帰りで提案。
「喫煙権・嫌煙権・タバコの規制(上・下)」ジュリ724号(1980年9月15日)40〜48頁、725号(1980年10月1日)109〜116頁、
弾圧に抵抗して勝利。新幹線に禁煙車を増やせと主張したら、長旅だから、たばこをやめられない人がいると反論された。長旅だから、たばこの煙で参ってしまう人がいるのに。一方しか見ない偏った見方が蔓延。リーガルマインドを説く法学者にもこの程度の方角違いの人が少なくなかった。
3 地方自治法
住民訴訟の被告を首長など個人ではなく、首長というポストに変えるのは、改悪だと反対したが、説明責任を強化するものという、役所代弁の学者に負けた。
しかし、これで行政側に説明義務、立証責任が転換すると反論している。この改悪は、墓穴を掘っているのではないか。
359.「住民訴訟改正へのささやかな疑問」自研77巻5号(2001年5月)19−42頁、計24頁
新聞33 「論点 住民訴訟改悪案は廃案に」産経新聞2001年9月30日。
とんでもないところに不服申立て前置主義の規定をおく地方自治法256条は分権改革の過程で廃止された。
「自治事務と不服審査前置制度(地方自治法256条)」自研54巻3号(1978年3月)29〜52頁、計24頁 (T、2所収)
時期遅れの国会公聴会 まじめにやれ 立法過程論の研究、ささやかな希望を持って、無意味な仕事をした。
343.「地方自治法大改正の政策法学的代替案−参議院地方公聴会発言」『法政策学の試み 法政策研究(第二集)』(神戸大学法政策研究会、信山社、2000年1月)25−41頁、計17頁
4 司法改革
司法制度改革審議会
長文の論文を書いて、行政訴訟の改革を入れるように佐藤、竹下さんに頼んだ。
未公表論がある。、
339.「司法改革への提言(上)(中)(下)」自研75巻7号(1999年7月)3−28頁、8号(同年8月)3−21頁、9号(同年9月)21−41頁、計66頁
法科大学院に現職判検事給与付き派遣法反対の運動、敗退。
5 行政訴訟改革
行政訴訟検討会に対し、行政訴訟改革を強く働きかけた。外野からがんばった。
しかし、抵抗勢力は実は官僚ではなく身内。
条文案を提案 日弁連案に大幅に採用。
パネルディスカッション「日弁連『行政訴訟法案』をめぐって」日本弁護士連合会編『使える行政訴訟へ『是正訴訟』の提案』99−144頁。
今回の行訴法の改正では、義務付け訴訟と仮命令が明文化、第三者への義務づけ訴訟では、中途半端である。仮の義務づけの要件も厳格
対決の状況は、ジュリスト1263号(2004年3月1日号)の鼎談(小早川光郎、芝池義一との議論)。「座談会 新行政事件訴訟法の解釈」判タ1147号(2004年6月15日)17−44頁の研究会。論争では負けていないと思うが、抵抗勢力がおおすぎ。関係者は今回の改革は当初できないと思っていたことができた、70点などと自己採点しているが、彼らが変な理屈を言わなければ、もっと改革できたのである。
不明確な法制度の下での選択を当事者の負担にするな、救済ルール明確性の要請を主張した。
16.「訴訟形式・訴訟対象判定困難事例の解決策」別冊判タ臨時増刊2号(1976年8月)行政訴訟の課題と展望7〜27頁、計21頁 (T、2所収)
188.「法の不明確性と行政訴訟の課題−最近の判例を中心として−」判時1352号(判評379号)(1990年9月)175〜188頁、計14頁、【T,9所収】
これは、だんだんわかってもらえるようになったが、立法化されなかった。
出訴期間を一日短くする行訴法14条4項は違憲と主張してきた。今回やっと改正された。
「平均日本人と行政争訟」『今村成和教授退官記念 公法と経済法の諸問題」(上)』(有斐閣、1981年10月)383〜410頁、計28頁 、T2所収
訴訟では仮の救済が天王山である。今回の改正にも多少影響を与えたはずだが、なおたりない。意味がある改正は、執行停止の要件を「回復の困難な損害を避けるため緊急の必要があるとき」から「重大な損害・・・」になったことだけ。
13.「抗告訴訟における仮救済制度の問題点(一)〜(三・完)」判評162号(=判時670号、1972年8月)108〜118頁、判評164号(=判時676号、1972年10月)108〜111頁、判評165号(=判時679号、1972年11月)108〜119頁、計27頁 (T、2所収)
しかし、原告適格は単に考慮事項が入っただけで、不明確であり、広がったかどうかもはっきりしない不十分な立法である。
「あな嬉し、出来損ないの立法で、私の論文、生き延びる」
「未完の行政訴訟改革」のはしがき用
法学の科学性に対する懐疑としては,1847年にドイツの裁判官J. vonキルヒマンが行った〈法律学の学問としての無価値性について〉という講演が有名である.キルヒマンはこの中で,法という人為の産物であり時勢とともに変遷する対象を扱う法学は厳密な意味で学問の資格を有しないと説き,〈立法者が三たび改正のことばを語れば万巻の法律書が反故(ほご)と化する〉と主張した.
原典は、Die Wertlosigkeit der Jurisprudenz als Wissenschaft : ein Vortrag gehaslten in der Juristischen Gesellschaft zu Berlin, 1848 / Julius von Kirchmann(Libelli ; Bd. 34)である。
23 『行政訴訟要件論』(弘文堂、2003年)
36「行政訴訟訴訟法改正 原告救済の姿勢が不十分」 読売新聞2004年2月25日
事情判決も、どっちからも言い出せば敗訴を認めることになるので言い出せない。これは中間判決を下すべきである。T2
公益訴訟報奨金を導入せよ。行政訴訟は多数の人に関わるので、原告が勝てば公共財を作った者と同じ。それが儲からないのは社会の発展を阻害する。
行政訴訟の印紙代は無料にせよ。行政側が一方的に処分して、お上を訴えるには印紙がいるというのは逆転している。行政が適法な処分を持参する債務があるはずだ。当事者対等の原則にも反する。
365. 「基本科目としての行政法・行政救済法の意義(六・七・八・九)」自研78巻1号(2002年1月)16−40頁、計27頁、4号(同年4月)3−15頁、計13頁、5号(同年5月)3−24頁、計22頁、7号(同年7月)3−21頁、計19頁
空港訴訟を巡り、公法上の当事者訴訟論争が起きた。そんなものは要らないと主張して、論争では勝ったはずだが、規定は残っている。そして、今度の行訴法改正で、これを活用することになり、実体公法が復権する。結局は、阿部泰隆は負けた。T23 しかし、公法と私法の区別は意味がないというのは塩野先生をはじめ通説、なぜ幽霊が生き返るのか、理解ができない。
そもそも、行政訴訟は、権利救済の実効性、両当事者の対等性、救済ルールの明確性を旨として、設計され、解釈されるべきである。ドイツの裁判所は裁判を受ける権利からこのような解釈をするのに、日本の裁判所がそのような解釈をしないのが、行政訴訟はやるだけ無駄といわれる原因である。そこで、この種の目的規定なり解釈指針を入れよと主張したが、訴訟法には目的規定などないという誤った意見(刑訴法1条にはある)か、解釈指針など、おこがましいという裁判官の抵抗か、何かの理由で入らなかった。最後に国会の付帯決議で入った。
6 行政法の法システムの改革・行政法学の再生へ
旧態依然とした行政法の体系を変えることが大事。「行政法の課題と体系」(T12所収)、外国法を模倣することのではなく、自分で考える行政法への脱皮が必要。日本から新しい行政法学を輸出したい。
『行政の法システム』(有斐閣)、これまでの行政法の体系を変え、現実の日本社会で動いている法システムを解明して、その不合理性を発見し、さらにその改善策を工夫するもの=行政法の構造を改革するものである。伝統的な行政法理論と体系も、リセットすべきもの、無数の法律の底流を流れる法システムとその運用の実態の分析でも、法律の不明確性を是正する解釈論でも、全く新たな法システムの提案でも、画期的なものであると自負。
行政法規が機能していない「法の執行の欠缺」(Vollzugsdefizit)をドイツで学んで日本の現実を分析した。これは単なる法社会学的研究ではなく、さらに立法論への示唆をもたらす。
これまで行政法が存在することを前提としてきたこの学問において、行政法の存在理由を解明したのも自分が最初のつもりである。経済学の発想である。
他の教科書の反応は?
厚いなどといわれるが、刑法でも民訴法でも皆厚い。
このままで行けば、これまでの行政法学は衰退産業になる。現に、各種の会議でも、行政法学者の比重は下がっている。司法試験から行政法がはずされ、さらには国家公務員試験からもはずす動きがあったのも、当然のこと。行政法学者がリストラされても、無能だからしょうがない。しかし、行政法学は再生されるべきだ。
7 司法試験必修化
行政法を司法試験から外すなという運動。行政法が基本科目であることを法務省、最高裁、理解させた。さきがけ党首の武村さんが理解
では行政法とは何だ、なぜ司法試験からはずすのは困るのか、一〇分で説明せよ
阿部泰隆の説明
行政法の命の恩人は竹村さん。そして、司法試験で公共組合などを出したのは、行政法の死刑言い渡し。もう少しのところで執行されるところだった。
阿部泰隆との対決、法務省、最高裁。保岡代議士が仲介。立ち会った某教授のメモ。
国会答弁で、行政法の重要性を理解。
この辺の裏話は活字にはできない。当日話す。
今回の新司法試験、法科大学院で行政法の復権どころか、必修化で大躍進。上智の小幡純子さんの貢献。
8 裁判に影響を与えた解釈学的意見
解釈論としては、裁判所に大きな影響を与えたものも少なくない。特定の事件において依頼されて執筆した阿部説が裁判所にほぼ採用されたか有利な和解を得た例も20数例にのぼる。六〇件くらい頼まれている(ほかに裁判所に出さない意見書もある)が、無理筋なり、勝てそうにない段階で初めて頼まれるのが普通なので、応援したものの半分近くがそれなりの成果を得ているのは、相当高い勝率と思っている。
海の下の所有権について法務省解釈は、太陽(大洋)に所有権がないのは古今東西に通ずる法理というが、浅い海には所有権が残っていて、おかしくない。意見書ではないが、裁判所に影響を与えた。 T7所収。
成果
以下、その具体的な内容は当日報告
このほか、負けたものも少なくないが、いずれも納得はしていない。
弁護士を通して裁判所に出すので、間接的で、裁判所がなかなか理解しない。往々にして、民事法の発想で凝り固まり、行政法を知らないので、学生以下の裁判官がいる。かれらに学問の最前線を理解させようとするのは大変な苦労である。
9 政策法学の提唱
私の学生のころは、立法論は法律学ではない、頭が悪い学者は解釈論に逃げるといわれた。しかし、キルヒマン「科学としての法学の無価値性」によれば、法律の書物の10分の9以上は、実定法の欠缺、疑義、矛盾、不真実、古くなったもの、恣意を扱っている。自然法を扱っているのはごく一部である。立法者の無知識、怠慢がその対象である。法律家は、朽ちた木で生きているウジ虫になったのである。立法者が三つの言葉を訂正すれば、すべての書庫は反古になる。
まったく、私は、立法の不備をいかにして是正できるかについて、解釈論と立法論を行ってきた。立法者が、完全な法律を作れば、私の論文はすべて反古になる。
しかし、幸か不幸か、日本の立法者は、それほど賢明ではない。「喜びもまだ半ばなり 行政訴訟改革」遺憾ながら、私の書物はまだまだ生き続けるのである。
むしろ、法律家は、ウジ虫を退治すべく、解釈論だけではなく、新しい法制度を設計する「政策法学」に移行すべきである。私は、すでにいくつかの書物を著し、実際の政策を設計している。各地の地方公共団体にも影響を与えているし、当初は、時期尚早、新規(新奇)の提案に見えても、10年経つと実現しているものが少なくない。その後時期が来て自然に実現したと思っている人が多いが、実現させたものも多い。
10 『政策法務からの提言』(日本評論社、1993年)
11 『大震災の法と政策』(日本評論社、1995年)
12 『政策法学の基本指針』(弘文堂、1996年)
17 『政策法学と自治条例』(信山社、1999年)
18 『定期借家のかしこい貸し方・借り方』(信山社、2000年)
20 『やわらか頭の法政策』(信山社、2001年)
21 『内部告発(ホイッスルブロウワァー)の法的設計』(信山社、2003年)
22 『政策法学講座』(第一法規、2003年)
26 『政策法学講座実践編』(第一法規、2005年予定)
典型例は嫌煙権。
定期借家権創設の理論的根拠を、新古典派経済学者と共同で提供して、立法者に働きかけ、多くの抵抗を排除して実現した。契約は守らなくてよいというのが民事法の発想!!。一度借りたら、基本的には永久に借りることができるのが正義に合致するというこれまでの発想の転換を迫ったもので、これは単に借家法だけではなく、法律家の発想の転換を求め、法律の分析に経済学的な発想が有用であることを示した点で、日本の法学史における大きな転換点を創造した。経済学に魂を売った?しかし、心は売っていない?
ジュリスト一一二四号の座談会、法セミでの吉田克己との対決。勝ったと思う。
「パネルディスカッション:定期借家権」都市住宅学19号(1997年)司会参加。
「座談会定期借家権をめぐって」ジュリスト1124号(1997年12月1日)
「座談会定期借家権構想の法的論点」判タ959号33−59頁(1998年3月1日)
「座談会定期借家による快適居住のまちづくり」(司会)自治研究1998年2月号
X323.「弱者に優しい定期借家権」法セミ1998年5月号8−11頁、計4頁、【T、18所収】
T18 『定期借家のかしこい貸し方・借り方』(信山社、2000年)
U 4 『定期借家権』(信山社、1998年)
法と経済学の立法論への導入を試みている。法と経済学会の創立。
自治体では政策法学重視の流れができている。しかし「政策法学研究所」を作って、商売をしてはやるところまでいっていない。
短期賃貸借保護廃止論に参加した。
執行の場合の占有者名不明でも執行できる制度が導入された。民事執行法一六八条の二第六項の導入。
これは阿部泰隆のアイデア。 335.「短期賃貸借保護廃止の提案」(上原由起夫氏と共著) NBL667号(1999年6月15日号)45−53頁、計9頁
阪神大震災のあと、「安く、みんなを、公平に迅速に」救うという観点から、法制度の作り直しを提案した。かならずしも実現していないが、若干は実現している。ただ、特に地震共済創設反対で兵庫県の御用学者になれなかった。
11 『大震災の法と政策』(日本評論社、1995年)
震災胎児への教育資金の支給を県知事を説得して実現させた
霞網の販売・運搬禁止 法改正で実現
各種手当ての所得制限が境界線で差別、違憲 児童扶養手当で実現
放置自動車対策 自動車リサイクル法で実現
放置自転車の車輪止め まだ採用されていない。
屋外広告物法、景観条例 景観3法で実現
独禁法改正 法人処罰を廃止して、個人処罰と法人への課徴金を強化するとの提案。
理論的には理解されつつあるが、まだ、実現しない。
情報公開条例は大阪府で小委員長として手伝った。プライバシー型の導入任意提供条項の非公開など、独自性を発揮した。まともに審議したので、目茶大変だった。
そのほか、行政手続法 若干の意見
高齢者対策の財源 消費税ではなく、相続税で
消防法違反については反則金の導入を 新宿雑居ビルの火災は、法災。
V6 『(続)消防行政の法律問題』(森本宏氏と共著、近代消防、2003年)
T 21 『内部告発(ホイッスルブロウワァー)の法的設計』(信山社、2003年) 内部告発者褒賞金こそ、社会を明るくする。
国家賠償 犠牲者への優しさを 当事者の対等性を
損失補償 ゴネ損方式
社会保障法 「重い、困った順」への支援
介護保険 措置から契約へ 業者の自由になると批判、要介護度の下の者は施設に入れないように改正
以上を含めて、日本列島法改造論を提唱
学問実践の最大の抵抗勢力は、既存の官庁勢力というよりも、古い学問だ。戦争の時の国体護持に似ている。
10 目下頑張っているもの
京大再任拒否事件、意見書をまとめた。U15。
11 教育
教育は、原料を仕入れて、付加価値をつけて製品として出荷する、人材育成工場。原料がよければ、先生が努力しなくても、製品はよくなる。
知識は意味がない。特に行政法学の知識など、最初から役に立たない。私自身も、これまでの行政法学は反面教師だ。しかし、それでもそれを知らなければ前進しない。社会の人が、大学で習ったことは役に立たないと言う。その意味次第だが、役に立たないことは確か。しかし、文学部を出ていれば、今日の阿部泰隆はないのだから、やはり法学部の勉強が多少は役立っているはず。
私は、考える力、勉強する力をつけようと努力した。学生は、それなりに実力が付き、活躍していると思う。阿部泰隆の院生の中から、博士が日本人で5人、台湾人で3人、大学の先生になったのが、日本人で12人、台湾で3人、中国本土で1名に及ぶ。
学部の講義、この10年ほどは休校は意地でもしない。一週間外国に行ったときは、講義をしてから関空に行き、帰国した日はそのまま講義をし、間の一週間は私が出たテレビのビデオを見てもらって、感想を書いてもらった。休講したいという誘惑と闘争
12 大学行政
35歳で教授になったら、教務委員としてこき使われた。
共通テストの初年度で、試験問題を抱いて、事務室に泊まり込まなければならなかった。泥棒よけになるはずがないのに。
馬鹿なしくみをなぜやめられないのか。小姑にいじめられて、境界型糖尿病になった。
大学は研究・教育が適切に高度にできるように最大限の配慮をすべき組織なのに、まったく逆。
六 最後に
1 神戸大に滞留
神戸大に、38年、泰隆はbig dragonかと思ったら、よくて対流(circulation)、下手すると,滞留(stay at the bottom )らしい。
神戸大に骨を埋める。滞留でも、stay in the heavenか。
任期制は、私のようなものをますます絶滅危惧種にしてしまう。キーウイ並である。これからは、吾妻大龍に。
2 今後のわが闘争ー捕らぬ狸の皮算用
行政関連訴訟専門弁護士として、わが説を裁判の場で実現する。
政策法学戦略顧問として、事前予防の戦略システムの構築に取り組む。
これから、行政事件は、台湾、韓国並みに30倍になれば、自分のところには、今年間、10件近くの相談があるので、300件の依頼に増えるという計算である。阿部泰隆を敵にすれば損だと風評が立てば、顧問先が増える。
もし儲けたら、阿部泰隆賞を作る。阿部説を前進させ、実現した者に贈るという方針。単なる論文では価値がない。
3 これからの研究・教育
「人生は短い、学芸は永遠である」(ヒポクラテスの誓い、ギリシャの医学の父、紀元前5世紀)。まだまだやりたりないことが多い。
この辺は当日報告
4 今は健康
胃も痔も悪くない(意地は悪くない)
阿部君、体が悪いのだってね、うん、頭も体の一部だからね!!うっかり反論できなかった。やはり頭が悪いのだろう。
では、悪いのは、頭だけ?もっと悪いのがある?何でしょうか?ということにならないように。これからも気を付けよう。
最後に
とにかく、河岸の向こうから負け犬が吠えているという人生、ああ、疲れた。
阿部が戦って、成果を上げても、阿部泰隆には環流せずに、そのとき高みの見物をしていた人が成果を得ている。阿部は一揆の首謀者扱い(年貢は軽減されるが、首謀者は斬首)。
結局は、阿部泰隆は変人か。いや、変革の人のつもり。田中真紀子が、変人=小泉、凡人=小渕、軍人=梶山と評したが、小泉は、変革の人と言った。小生から言えば、それが小泉の唯一の業績。
変わっているかどうかは基準点次第。御用学者から見れば、阿部泰隆は変人。しかし、あるべき日本の姿から見れば、まっとうだと思っている。
阿部の末路は、「今からでも遅くはない、御用学者に!!」、それとも、さらに過激に。
(阿部泰隆は一つも過激なことをいっているつもりはないのだが。過激というのは、まっとうなことは困るという、国体護持論者ではないか)
質問
阿部泰隆著作一覧
T 著書(単独著)
1 『フランス行政訴訟論』(有斐閣、1971年)
2 『行政救済の実効性』(弘文堂、1985年)
3 『事例解説行政法』(日本評論社、1987年)
4 『行政裁量と行政救済』(三省堂、1987年)
5 『国家補償法』(有斐閣、1988年)
6 『国土開発と環境保全』(日本評論社、1989年)
7 『行政法の解釈』(信山社、1990年)
8 『自治体政策と条例』(地方自治総合研究所、1992年)(17に吸収)
9 『行政訴訟改革論』(有斐閣、1993年)
10 『政策法務からの提言』(日本評論社、1993年)
11 『大震災の法と政策』(日本評論社、1995年)
12 『政策法学の基本指針』(弘文堂、1996年)
13 『行政の法システム上・下[新版]』(有斐閣、1997年)(初版、1992年、補遺1998年
14 『〈論争・提案〉情報公開』(日本評論社、1997年)
15 『行政の法システム入門』(放送大学教育振興会、1998年)
16 『政策法学と条例』(北海道町村会、1998年)(17に吸収)
17 『政策法学と自治条例』(信山社、1999年)
18 『定期借家のかしこい貸し方・借り方』(信山社、2000年)
19 『こんな法律はいらない』(東洋経済新報社、2000年)
20 『やわらか頭の法政策』(信山社、2001年)
21 『内部告発(ホイッスルブロウワァー)の法的設計』(信山社、2003年)
22 『政策法学講座』(第一法規、2003年)
23 『行政訴訟要件論』(弘文堂、2003年)
24 『行政書士の未来像』(信山社、2004年)
25 『行政法の解釈(2)』(信山社、2005年予定)
26 『政策法学講座実践編』(第一法規、2005年予定)
U 編著・共同監修著
1 『演習行政法上・下』(青林書院、1979年)
2 『講義行政法I・U』(青林書院、1982年、1984年)
3 『判例コンメンタール 行政事件訴訟法』(三省堂、1984年)
4 『定期借家権』(信山社、1998年)
5 『湖の環境と法−琵琶湖のほとりから−』(信山社、1999年)
6 『山村恒年先生古稀記念 環境法学の生成と未来』(信山社、1999年)
7 『実務注釈 定期借家法』(信山社、2000年)
8 『法政策学の試み 法政策研究(第一集)』(信山社、1998年)
9 『法政策学の試み 法政策研究(第二集)』(信山社、2000年)
10 『PRTR法は企業と社会をどう変えるか』(神戸環境フォーラム、(株)アンパサンド、2000年)
11 『法政策学の試み 法政策研究(第三集)』(信山社、2000年)
12 『法政策学の試み 法政策研究(第四集)』(信山社、2001年)
13 『法政策学の試み 法政策研究(第五集)』(信山社、2002年)
14 『環境法第3版』(有斐閣、2004年、初版1995年、新版1998年) 15 『京都大学 井上教授事件』(信山社、2004年)
V 共著(背表紙に名前がのったもの)
1 『地方自治法入門』(小高剛氏他と共著、有斐閣、1978年)
2 『地方自治法の論点』(小高剛氏他と共著、有斐閣、1982年)
3 『地方公務員法入門』(中西又三氏他と共著、有斐閣,1983年)
4 『消防行政の法律問題』(森本宏氏と共著、全国加除法令出版、1985年)
5 『判例コメンタール国家賠償法』(三省堂、1988年、兼子仁、村上順氏と共著)
6 『(続)消防行政の法律問題』(森本宏氏と共著、近代消防、2003年)
そのほか、神戸法学雑誌(近刊)、阿部泰隆のHPwww2.kobe-u.ac.jp/~yasutakaに掲載、