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【暮らし】

ハケンの反撃<1> 広がる連帯の輪 武器はユニオン

2008年2月10日

 二重派遣などの違法派遣や劣悪な労働条件が問題になっている派遣労働者。パートなどを含めた立場の弱い非正規雇用労働者は、全労働者の三割を超える。一方、経営側は安価で使い勝手のいい労働者を求める姿勢を変えていない。「逆風をはねのけるには団結が必要」。“ハケン”の反撃が始まった。 (服部利崇)

 「下着と靴下以外、着ている服は息子のものです」。東京・永田町で行われた格差是正のシンポジウムで、派遣労働者の石神与志治さん(55)は、国会議員や報道陣ら約百五十人を前に窮状を訴えた。石神さんは物流関連派遣会社マイワークの労組(ユニオン)委員長だ。

 静岡県内で経営していた書店を閉め、東京に出てきたのが七年前。「拘束がイヤ」で派遣を選んだ。新宿の生協で週五日、早朝六時から商品の積み降ろしをしているが、年収は二百万円を切る。「ワーキングプアと言われる側に行っちゃった」

 派遣労働者は約三百二十一万人(二〇〇六年度厚生労働省調べ)。一昨年から昨年にかけて、日雇い派遣大手で、個人で加入できるユニオンが続々と誕生。半強制的に徴収されてきた不透明な給与天引きの返還要求を中心に、経営側への“反撃”が始まった。

 効果は出始めている。派遣大手のグッドウィルとフルキャストは天引きを相次いで廃止。マイワークも昨年七月、派遣一回あたり二百五十円の「安全協力費」名目の天引きをやめた。

 石神さんは昨年九月、「ちょろまかしたものはすべて返してもらう」と、わずか三カ月でユニオンを結成した。組合員は十二人。すべての派遣労働者へ創業時にさかのぼった天引き分全額返還を求め、五回重ねた団交は決裂。今後、労働基準監督署に申告して闘いを続ける。フルキャストユニオンは、全額返還を勝ち取っているからだ。

 「自分の子も非正規という友人が増えている」と石神さん。“階級”が固定される格差社会を肌身で感じ、十−二十代が多い組合員への思いを語る。「収入が安定せず家庭を持てない若者が増え、孫が抱けない同世代も増えるだろう。組合を立ち上げたのも行動で何かが変わることを若者に見せたかったから」

      ◇

 繰り返される禁止業務への派遣や二重派遣…。惨状に、連合は昨年十月、労働相談などの拠点として「非正規労働センター」を発足させた。同センターの龍井葉二総合局長(58)は「正社員中心の壁を越えていこうという連合の自己改革宣言」と、反省を込めて話した。連合は二年前から「非正規の処遇改善」を掲げてきたものの「かけ声だけで不十分だった」と認める。

 今年の春闘で、連合は「日雇い派遣禁止」の法改正など大幅な規制強化を訴える予定。だが、米サブプライム住宅ローン問題などの景気の先行き不安を背景に、経営側が軟化する兆候はない。

正社員も連帯を

 非正規の条件悪化に引きずられ「正社員もサービス残業や低賃金など労働条件が悪化している」と龍井さん。「自分たちを守るために正社員も派遣と連帯しなければならない」と訴える。

 連合系の全国ユニオンによると現在、個人加盟ユニオンは約三千三百団体まで増えている。

 製造業ユニオンを支える「ガテン系連帯」共同代表の木下武男昭和女子大教授(労働社会学)は「個人加盟ユニオンは芽が出たばかりで、大きく育つには肥料や水がいる。連合が資金面や動員面で支えれば、職種別ユニオンに発展し、業界全体の問題にも切り込める」と話す。

 

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