いまさら、どんな紹介もいらないでしょう。
明石家さんまさんの登場です。
今回、ほぼ日で「睡眠」の特集をするにあたり、
この人が出てくれたら最高だなぁということで
夢のように名前を挙げていたのが
「とにかく寝ない人、明石家さんまさん」でした。
ほぼ日にかぎらず、こういった取材ものには
ほとんど登場しないといわれる明石家さんまさんですが、
多忙を極める中、時間を割いてくださいました。
脱線大歓迎、というスタンスで臨んだ糸井との対談は、
予想どおり、いえ、予想をいい意味でおおいに裏切る
「おもしろい時間」になりました。
全17回、どうぞたっぷりお楽しみください。
ああ、そうそう、この対談は期間限定の掲載となります。
睡眠特集の終了とともに読めなくなってしまいますので
どうぞ、読み逃しのないように!

「いつか無くなるものを求めちゃいかんのだよ。
無くなるものは、求めるためではなく、
そいつで遊ぶために、この世にあるんだからな」
(『セフティ・マッチの金の言葉』より)

第1回 寝ない人 第10回 動物とサッカー
第2回 ずっと元気 第11回 ハズレをつかむ快感
第3回 そんな生活はできない 第12回 落合采配
第4回 昔から、ずっと 第13回 考えてる時間
第5回 寝てられない 第14回 生きてるだけで丸儲け
第6回 シリコン 第15回 追いつかないんですよ
第7回 さんまシステム 第16回 幸せってなんだっけ?
第8回 負けてるときは 第17回 師匠
第9回 ピヨヨヨヨン    
第16回 幸せってなんだっけ?
糸井 しかし、「笑い」っていうのは、
いわばもう、善と悪の境目だし、
天国と地獄の境目にある仕事だから、
まぁ、魔法使いみたいなもんですよね。
さんま まぁ、いいように言えば、
そうかもわかりませんね、はい。
糸井 それをずっと考えてきたさんまさんが、
お坊さんのようなことをおっしゃるのは
当たり前のことなのかもしれませんね。
やってることは、宗教と同じですから。
さんま そうかもわかりませんね。
そうすると、宗教ってなんやねん、
っていう話になるんですけど。
そうなると、たどり着くところは、
やっぱり「愛」っていう宗教が
いちばんすごいわけで、
けっきょくいっつもその、
「愛」っていう宗教にハマるじゃないですか。
糸井 はいはい。
さんま みんなそうだと思うんですよ。
「愛」という宗教に行ってしまう。
そういう意味でいえばね、
所詮そんなもんだともいえる。
所詮、たいしたこと、誰も言ってない。
糸井 あの、仮に「愛」っていう、
こう、数字というか記号を当てはめると、
いちばん公式が解決しやすくなるってことで
回ってるわけですから。
さんま そうです、そうです。
そこへみんな逃げてる。
だから、みんな、グルグル回って生きていって、
誰も結論出さないままに死んでいくというね。
糸井 ああ、そのへんも浄土宗っぽい(笑)。
さんま あ、そうですか。
そこはぼく、あんまり
わかってないんですけども。
糸井 けっきょく、親鸞さんが言ってるのも、
ふつうの人を全員いっぺんに
救うものじゃないとダメだ、
みたいなことですからね。
修行している人だけ救われても
困っちゃうわけですから。
さんま ああ、それはそう。そうです。
糸井 そのへんにいるふつうのおじさんまで
オッケーにしないとダメだという。
さんま ええ。そうしないとダメです。
だから、「苦労は買ってでもせい」
なんていうけど、あんなことば、
早く、なくしたほうがいいですよね。
糸井 ああ、そうですね。
冗談じゃないですよね。
さんま 冗談じゃないです。
「苦労は売ってでもやめろ」って思いますよ。
糸井 (笑)
さんま もう、なんていうんでしょう。
辞書から消したほうがいいようなことばが
たくさんありますよね。
「苦労」なんて消したほうがいいし、
「努力」っていうのも消したいし、
「幸せ」も消したほうがいいですよ。
糸井 「幸せ」はもう、消したじゃないですか。
ポン酢しょうゆをそこに置くことで。
さんま ああ、そうですね(笑)。
あれはもう、20年前に消してたわけですね。
(さんまさんが1986年に出演した
 キッコーマンのポン酢しょうゆのCMのこと。
 ポン酢しょうゆを手にしたさんまさんが歌う
 「♪しあわせってなんだっけ、なんだっけ、
  ポン酢しょうゆのあるウチさ」
 というCMソングが大きな話題になった)
糸井 あれは、さんまさんが
ポン酢しょうゆを置いたことで
「キミたちの幸せはこれだから」って
決めちゃったわけでしょう?
幸せの「代理」を定義したというか。
さんま そうですねぇ(笑)。
糸井 ある意味、みんなの幸せが
あれで消されちゃったんですから。
「ポン酢しょうゆのあるウチさ」で。
さんま なるほどね(笑)。
糸井 あのCMは、広告屋としては
ほんとうにショックだったんですよ。
あれでなにかを変えられたといっても
いいくらいだった。
さんま あ、そうなんですか。
糸井さんが。へぇーーー。
糸井 もちろんあのことばをつくったのは
さんまさんじゃなかったんでしょうけど、
さんまさんというキャラクターがなければ
あの歌は絶対できなかったはずですから。
さんま そうですね。
糸井 みんなで鍋をするってことが
幸せなんですよっていう、
すごく大きなことを、
あっさりと伝えちゃったわけで。
さんま うん、だから、
「なにが幸せなのか」
っていうだけのことですからね。
「鍋」でいいんだったら、
「幸せ」なんていうことばは
なくしたほうが楽ですよ。
糸井 そういえば、ぼく、土鍋をつくったんですよ。
今度、送りますね。いいですよ。
さんま あ、そうですか。
いつもありがとうございます。
糸井 けっきょく、ぼくがやってるのも、
具体的に土鍋をつくってたほうが、
「幸せっていうのはな‥‥」って言うより
よっぽどいいなと思ってるからで。
さんま ああ、なるほどね。
糸井 やみくもに世界平和を目指すよりも、
みんながあったかい気持ちになる土鍋を
苦労してつくったほうがいいんです。
さんま ああ、なるほど、なるほど。
たんに鍋をつくっただけでもね。
糸井 うん。そっちのうほうが、
ぼくは満足感があるんですよ。
さんま いや、そうでしょう、もう。
そんなんですよ、人の満足感って。
あのぅ、戦争止めるとか、世界平和はね、
どう考えてもぼくには無理です。
糸井 「なにから手をつけていいのか
 わからない」から。
さんま そうそうそう(笑)。
どう考えたって、無理ですよ。
近所でもめてるおっさんもおるし、
車、運転するだけであんなにもめるんですから。
そんもん、絶対無理ですよ。
糸井 まさにそれは
「追いつかない」ってやつで。
さんま 追いつかない。追いつかないんですよ。
で、そう言うとかならず、
「あきらめてどうすんのよ」
って言う人がいるんですけどね。
糸井 なぜかいま、女性口調でしたが。
さんま クワー(笑)。
糸井 言われたことがあるんですね。
さんま いや、女性はね、言うんですよ、
「あきらめないで、あなた」とか。
たぶん、そういうふうにあきらめることを
女性は嫌いなんでしょうね。
糸井 でも、無理だと。
さんま 無理です。ごめんなさい。
  (続きます)
   
2008-02-08-FRI

(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN