仲卸業者の「目きき」が高品質を維持、衛生管理につながっている(築地市場で、筆者撮影)
毒入りギョーザ事件で中国産食品への懸念が広がり「北京五輪は大丈夫か」の声も上がるなか、米国五輪チームは北京には中国以外で調達した安全な食材を持ち込むことを決めた。海産物は日本で仕入れ、果物類はオーストラリアから運ぶ計画という。米紙が報じた。
日本最大の魚河岸・築地の東京中央卸売市場関係者の話によると、昨年夏、中国環境学会の研究者たちが同市場を見学に訪れた。一行はハエが1匹もいない市場の衛生管理に目を剥いた。中国では空前の好景気に連動する「寿司ブーム」の到来で、魚の需要が急速に高まっている。だが、中国の市場では、海産物に黒山のごとくハエがたかるのが普通なのだそうだ。
五輪前後1カ月にわたる長期間、大量の食品を継続して調達できる市場は、日本だと築地しかない。羽田や成田に近い地の利からいっても、この米五輪チーム用の海産物は築地から仕入れることになるだろうことは明らかだ。
「昭和10年(1935年)の創業以来、築地では一度も食中毒を出したことがない」が仲卸業者たちの自慢だ。かつてインドネシアから一酸化炭素を吹きつけたマグロが入荷した際、仲卸業者の「目きき」が見破った。一酸化炭素を吹き付けると、腐った魚肉でも鮮やかな赤色になる。マグロの不自然な赤色を、一瞬で見抜いたのだ。研ぎ澄まされた仲卸業者たちの眼力が、徹底した衛生管理につながっている。
鶏肉食べてドーピング検査アウト?
米国オリンピック委員会(USOC)の食料担当者が昨年、事前調査で中国を訪れた。スーパーで売られている鶏肉を持ち帰って検査したところ、大量のステロイド剤が検出された。ブロイラーを大きくするため、筋肉増強剤のステロイドを大量に投与していたのだ。
もし選手が食べれば、ドーピング検査で陽性反応が出るのは必至となるほどの量だった。殺虫剤が混入したギョーザ、農薬まみれの野菜も怖いが、ドーピングで選手がメダルを剥奪されたりしたら、ことは国家のイメージ失墜にもつながってしまう。
国産ギョーザの皮はどこも売り切れ(都内のスーパーで)
米五輪委員会(USOC)の「食材調達作戦」が起動した背景には、そういう事情が強く働いたようだ。USOCは安全な食材を原則として中国以外の所で仕入れ、北京に運搬することにした。現在までに肉、海産物、果物を中国以外で調達することが明らかになっている。野菜や水など具体的には来月末までに決める見通しだ。
米チームの栄養士は選手たちの食事メニュー1,500レシピを考えているという。膨大な数のレシピで、選手だけで600人、役員分も入れれば1,000人を超す食事を調理するには大量の食材が必要だ。中国の食材を使わざるを得ないケースも出てくる。ここは頭が痛い。
食材担当者の心配のタネはまだある。海外で仕入れた食材を中国に持ち込む際は税関を通らねばならず、ここで10日ほど留め置かれる。テロリストや犯罪者に、毒物を混入するチャンスを広げることにもなる。水も問題だ。中国では水道水をボトルに詰め、有名ブランドのラベルを貼った「偽ミネラルウォーター」も、膨大な本数が出回っている、という報道もある。
冷凍ギョーザに毒物が混入していた事件は、中国での食の安全確保が難しいことを改めて思い知らせた。日本チームは大丈夫か。まだ対策は発表されていない。
(田中龍作)
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