◎ハトムギでがん予防 医と農が手を結ぶモデルに
金大の研究者がハトムギの殻や皮から有効成分を抽出してハトムギエキスを開発し、抗
がん作用をはじめ、さまざまな病気への効果を確かめる臨床試験に乗り出すことになった。ハトムギは富山県西部で産地化が進み、補完代替医療の草分けで国内の研究拠点である金大にとっては地元産品を生かした医薬品づくりとなる。
生産者にとっても医学のお墨付きが得られれば特産品づくりに弾みがつくことになり、
研究者とJA氷見市などは近く「ハトムギ臨床応用研究会」(仮称)を設立する。北陸の医学と農業が本格的に手を結ぶ試みと言え、農産品から医薬品や機能性食品を育てるモデルにしたい。
ハトムギの実は「ヨクイニン」の薬名で鎮痛や利尿、いぼ取りの漢方薬として古くから
知られ、肌の状態を整える効果があるとして化粧品やサプリメントにも使われている。
金大は全国に先駆け、補完代替医療学講座を開設し、サプリメントや健康補助食品など
の研究を進めてきたが、そのきっかけもハトムギだった。同講座の鈴木信孝特任教授がハトムギを食べていた女性の皮膚疾患が改善したことに着目し、薬効を確認したことが補完代替医療の講座につながったのである。
鈴木特任教授と薬学部の太田富久教授らはハトムギの殻や皮から有効成分を取り出す方
法を考案し、これにビタミンB類を加えることで、がんやしみなどの予防効果が高まることを確かめ、特許を取得した。粉末状のハトムギエキスは皮膚がんや子宮頸がん、声帯ポリープ、いぼなどへの応用が期待でき、臨床試験を重ねて効果を証明する。
JA氷見市は転作作物としてハトムギ栽培を奨励し、「氷見はとむぎ茶」はヒット商品
に成長した。小矢部、高岡市などのJAでも栽培を広げる計画があり、医学の後押しでブランド化の夢が膨らんでいる。
病気に効くことをうたい文句に、さまざまな健康食品があふれ、がん患者の多くも健康
補助食品に頼っているという報告がある。だが、科学的根拠に裏付けられた食品は意外と少なく、かえって患者を混乱させている一面もある。補完代替医療は未知なる領域であり、ハトムギの臨床研究を通してその可能性が広がることを期待したい。
◎相次ぐ新庁構想 焼け太り批判招かぬよう
新庁構想がこのところ相次いで浮上している。公務員制度改革に関する政府の有識者会
議が「内閣人事庁」の創設を提言したのに続き、政府の消費者行政推進会議が消費者行政を一元化する一つの案として「消費者庁」について検討を始める。今年十月の開設が決定している「観光庁」に次いで俎上にのる新庁構想は、それぞれ一理ある意味付けがなされているが、行政機構の改革はスクラップ・アンド・ビルドを原則とし、いわゆる焼け太り批判などを招かないようにしてもらいたい。
観光庁は国土交通省の外局として設置される。省庁に外局が新設されるのは、二〇〇〇
年の金融庁以来である。国交省のほか外務省、経済産業省、文部科学省など縦割りで実施されている観光政策を集約し、観光立国の実現をめざすという。
国交省内の観光関係六課を統合し、百人規模でスタートする予定であり、縦割り行政の
弊害排除という意義付けは理解できるとしても、観光庁と今後の新庁構想で行政改革の流れが滞ることがあってはならない。政府の総人件費削減計画では、〇六年度から五年間で国家公務員を5%以上純減させることになっている。その計画達成をあらためて福田首相に求めておきたい。
新庁の設置は官僚機構の肥大化につながる恐れがある一方で、官僚の抵抗を呼ぶ可能性
もある。福田首相が一元化に意欲的な消費者行政は現在、厚生労働省や農林水産省、経済産業省などにまたがっている。消費者庁の設置は、これら既存省庁から関連の権限や予算を奪うことを意味しており、構想の実現には首相の強い指導力が必要である。
また、現在の新庁づくりの動きは付け焼き刃的な印象もぬぐえない。こうした国政課題
ごとの対応ばかりでなく、省庁の全体像を描き直す必要もあるのではないか。自民党行革本部は安倍内閣時代の昨年春、省庁改革委員会を設けて省庁再々編の議論を開始したものの、福田内閣になって尻すぼみに終わったようだ。昨年の議論では「官から民へ」「国から地方へ」という流れの中で省庁の在り方を考える必要性が指摘された。こうした視点に立った再々編論議を止めてはなるまい。