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2008年02月10日(日曜日)付

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東京G7―ドルのメタボに処方なし

 「ドル不安」が語られ、中国や産油国などの政府系ファンドが欧米の金融機関へ出資する――。米国の低所得者向け住宅融資(サブプライムローン)から広がった動揺で、国際金融を取り巻く情勢は様変わりした。

 局面が深刻さを増してから初の主要7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)が東京で開かれた。共同声明はG7の成長がいくぶん減速することを認め、「必要な改革を通じて成長力を高めるために努力を強化する」と強調した。

 「せっかく東京で開くのだから」と、日本側は90年代に辛酸をなめたバブル崩壊と事後処理の経緯をていねいに説明した。金融機関の損失を早く確定して処理し、不足する資本は何らかの形で補う。それが日本の教訓だ。

 サブプライム問題では、不良資産が証券化され、世界中の投資家にばらまかれただけに、日本の銀行融資とは違って、損失確定が難しいという面がある。それでも、本当に必要なのは日本での教訓が示すように、やはり金融機関の損失の確定と資本の増強である。

 G7では、米国がそれを民間の自助努力で進める方針を改めて示した。ただ、シティグループやメリルリンチなど大手はともかく、より小さな金融機関は自力で資本を増強できるだろうか。経営危機になれば、金融システム全体の動揺にもつながる。損失額がはっきりした時点で、公的資金を注入することになる可能性が高いのではないか。

 世界経済の減速については、利下げや財政出動などの政策協調は見送られた。サブプライムで米国の景気がへこむ分をどう補うか。インフレ懸念のある欧州や財政赤字が山積する日本がカバーするのは難しい。中国や湾岸諸国、ロシアなどに期待したいところだが、米国の減少分を丸ごと補うのは無理だ。

 このため、G7の各国が可能な範囲で努力する、それ以外の国にも相応の配慮を期待する。共同声明は、そんな結論に落ち着かざるを得なかった。

 そんな中で日本は、内需主導の景気底上げに一層の知恵を絞ることが大切だ。円高ドル安は輸出産業を圧迫するが、他方では、上昇してきた輸入物価を押し下げる効果がある。「円」の購買力が高まるのを生かして、内需の盛り上がりにつなぎたい。そのために、企業は春闘で従業員の待遇を改善し、政府も必要な改革を進めなければならない。

 一連の世界経済の不調は、突き詰めれば、米国が世界へばらまいてきたバブルがはじけた結果だ。ドルのだぶつき、いわばドルのメタボリックシンドロームを治さないことには、ドルが急落したり、石油や他の資源が高騰したりして、不況とインフレの同時発生という最悪のシナリオに陥る恐れもある。

 この難問を解くことこそG7に与えられた課題だが、今回も先送りされた。世界経済はこれからも綱渡りが続く。

ハンドボール―対話のパスで対立ほぐせ

 こんな泥沼の争いはスポーツに似つかわしくない。そろそろ打開の道へとかじを切るべき時だろう。

 ハンドボール界の国際連盟とアジア連盟の対立のことである。

 騒ぎの発端は、「中東の笛」と呼ばれる不自然な審判だった。国際連盟は北京五輪のアジア予選をやり直した。その結果、男女とも韓国が五輪の出場権を得て、敗れた日本は世界最終予選に回ることになった。中東の国々などはやり直し予選への参加を拒んだ。

 アジア選手権が17日からイランで始まる。これに対し、国際連盟は来年の世界選手権のアジア代表選考会とは認めないことを決めた。アジア連盟が大会の運営権を手放さず、審判の選定も自分たちでおこなうと譲らなかったからだ。

 一連の動きで、アジア連盟のかたくなな態度は異常というほかない。だが、ここにきて微妙な変化も出ている。

 やり直し予選に出場した日本と韓国に対し、アジア連盟が決めた処分は罰金1000ドル(約10万8000円)と警告だけだった。資格停止などの厳罰を科す構えを見せていただけに、予想外の軽さである。追加処分もにおわせてはいるが、本気かどうかはわからない。

 アジア連盟は、クウェートの王族アーマド会長が率いている。アーマド氏はこの騒ぎで、「日本は信頼できない」といい、2016年の東京への五輪招致は支持できないと発言していた。だが、これも事実上、撤回した。

 国際オリンピック委員会(IOC)は国際連盟を支持している。孤立するアジア連盟は、強気の態度とは裏腹に手詰まりというのが現実の姿だろう。

 ここで日本はどうすべきなのか。

 処分に従う必要がないのは言うまでもない。国際連盟も早くからアジア連盟の処分は無効だとの判断を示している。

 大事なのは、日本ハンドボール協会がきちんと意見を主張し、仲間を増やしながら、アジア連盟の体質を変えていくことだ。今回、韓国と手を携えてアジア予選のやり直しを実現させた経験も役に立つだろう。アジア選手権が世界選手権の予選でなくなっても進んで参加し、多くの国々と対話を重ねたい。

 不思議なのは、静観している日本オリンピック委員会(JOC)の態度だ。アーマド氏はアジア・オリンピック評議会の会長を兼ねているので、ことはハンドボール界だけの話では済まない。

 東京への五輪招致に真剣に取り組むというのなら、言うべきことは言ったうえで、アーマド氏を取り込むぐらいの指導力を発揮したらどうか。

 日本ではあまり注目を浴びることのなかったハンドボールが、今回の騒ぎで大きな関心を集めた。テレビ中継もされたやり直し予選で、選手の俊敏な動きに引き込まれた人も多かったろう。

 今こそ対立をほぐして再出発することがハンドボール界に求められている。

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