突然の訃報(ふほう)に驚いた。半世紀にわたり、郷土岡山の歴史や風土、文化を中心テーマに撮り続けた写真家の中村昭夫さんが逝った。
「無我夢中で写真を撮るうちに、好奇心が探究心に変わり、気が付いたらプロの世界に足を踏み入れてました」。二年前に本紙文化面に連載された聞き書きシリーズ「伝 みらいへ?」で、写真一筋の人生を淡々と振り返っていた。
岩波写真文庫から初の写真集「倉敷」が出たのが一九五七年。以来、出版した写真集は四十冊以上に及ぶ。ライフワークとして取り組んできたのは、古代吉備の遺跡や仏像などの文化財、備前焼、古里の風景…。郷土を愛し、地域を見つめ続けた。
自分のイメージ通りに撮れるまで粘るのが信条。写真集「吉備」で、雲海の名所・弥高山から吉備高原を撮った時のこと。山並みが瀬戸内海まで連なる写真が欲しくて、自宅を午前三時に出て十八回登ったという。
社会派の視点も失わなかった。四季折々の風景を活写し、撮影に十年をかけた「ふるさと讃歌」も、開発で傷つけられた自然への憤りが底流に潜む。生まれ育った倉敷の町並みへの思い入れも強く、伝統的景観の保全に尽力した。
穏やかな中にもしんの強さを秘めた。「これからも地域を見据え、岡山の魅力を撮り続けたい」と情熱をみせていたのに。岡山の写真界はかけがえのない人材を失った。