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救急受け入れの障害に東京都三鷹市の杏林大付属病院で、昨秋、切迫早産で搬送された女性が、出産予定日より3か月も早く帝王切開で双子を産んだ。 「また苦しいやり繰りをするしかないか」。同大小児科医の杉浦正俊さんはつぶやいた。受け入れるべき新生児集中治療室(NICU)15床は満床。回復期治療室の18床も埋まっていた。 杉浦さんらはやむなく、比較的、容体の落ち着いた子ども2人を新生児治療室から回復期治療室に移し、2ベッドを空けた。回復期治療室の夜勤看護師を増やし、回復の進んでいる子の親に「明日、退院ができますか」と連絡した。 この日は何とかしのいだものの、同病院には、「NICUをすぐに必要とする可能性がある分娩(ぶんべん)」がほかに3件控えていた。 「常時ほぼ100%の利用状況。新たな入院があれば、別の子が押し出されていく形になる」と杉浦さん。こうした“常時満床”が、各地で日常化している。 「妊娠高血圧症で、すぐに赤ちゃんをおなかから出さないと、母体も赤ちゃんも危ない」。昨年末、東京都新宿区にある東京女子医大付属病院に、NICUのない近隣病院からの緊急連絡が入った。 “いつもの悪戦苦闘”が始まった。午後9時過ぎ。当直だった産科の女性医師は、東京都内の周産期医療(産科と新生児科医療)の情報ネットワークをパソコンで調べ、NICUに空きがあって搬送可能な病院が一つもないことを確認した。 「うちはNICUがいっぱいでダメなんです。受けてもらえませんか」。もう2人の医師と手分けして埼玉県、神奈川県、静岡県の主な病院20件以上に電話をしたが、どこもいっぱい。最後の選択として、NICUを担当する新生児科医に頼み、「集中治療中のどの子なら人工呼吸器のない回復期治療室へ出せるか」と検討を始めた。 その時、先程電話した埼玉県の中核病院から「空きができた」と連絡が入り、急きょそこへの搬送を手配した。午前2時になっていた。 「天の救いだった」と女性医師。この間、入院患者の出産や出血した妊婦の対応もあった。「2時間程かけて搬送先を探すことが月に何回かある」と話す。 同病院は、都内の西部3区の周産期医療の拠点だが、昨年の後半で計169件あった妊婦の搬送依頼のうち、受け入れできたのは56件だけ。3分の1にすぎなかった。「3年前にNICUのベッド数を9床から12床に増やしたが、その効果はすぐに消えた」と同大産婦人科教授の松田義雄さんは言う。 妊婦の救急搬送が困難な裏に、NICUの不足がある――国がそう認め、実態を公表したのは昨年10月だった。高度な周産期医療を担う全国の病院への調査で、NICU病床の利用率が90%以上との回答が7割。妊婦搬送を受け入れなかった理由として、9割が「NICUの満床」を挙げた。 「出産年齢の上昇などで、高リスクの妊婦が増え、少子化なのに重症の新生児は増えている。NICUのベッドと同時に人手も増やす必要がある」。同病院の新生児科医、楠田聡さんは指摘する。 都立墨東病院の新生児科部長の渡辺とよ子さんは26年前から、新生児救急医療にかかわってきた。 「この10年でNICUの整備は進んだが、それを追い抜く速さで時代環境が変わった。500グラム未満の赤ちゃんも助かるようになり、そうした子の発達を支援する役割も新生児科医療には求められている。しかし、多くのNICUは目前の事態に手いっぱいで、母と子の支援までする余力を持てていない」と話す。 (おわり)
(2008年2月9日 読売新聞)
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