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【主張】君が代訴訟 徹底指導を妨げる判決だ
卒業式の国歌斉唱時に起立しなかった教員を、退職後に嘱託として採用しなかったのは裁量権の逸脱だとする判決が東京地裁であった。教育現場での国旗・国歌の指導に迷いを生じさせかねない問題の多い判決である。
この訴訟は主として、卒業式や入学式で教職員が国旗に向かって起立して国歌斉唱することを求めた東京都教育委員会の通達とそれに基づく校長の職務命令の合法・合憲性が争われた。
判決は、通達と職務命令そのものについて、「国歌斉唱で起立しても、特定の思想を表明することにはならない」と指摘し、合法・合憲だとした。ここまでは、昨年2月の最高裁判決に沿った妥当な判断である。
しかし、嘱託教員として不採用としたことには、「不起立という一度の職務命令違反を過大視し、客観的合理性を著しく欠いている」との判断を示した。極めて疑問である。判決は「起立と斉唱の職務命令は、教育指導に関する他の命令と比べ、とりわけ重大とはいえない」ともいっている。
卒業式と入学式は年に一度ずつしか行われない。子供たちが国旗と国歌に対して敬意を払う心とマナーをはぐくむための数少ない機会である。教員の不起立がたった一度であっても、それは重大な職務命令違反である。
今回の判決のような考え方が学校で通用するようになれば、卒業式などで教員が一度や二度くらい国旗や国歌に抵抗姿勢を示してもかまわないという風潮を生みかねない。
同じような問題教員の定年後の再雇用を争点とした別の訴訟で、東京地裁は昨年6月、再雇用の合格取り消しを都教委の裁量権の範囲内とする逆の判決を言い渡している。今回の東京地裁判決については、控訴審で適正な判断が示されることを期待する。
国旗国歌法は国旗を日の丸、国歌を君が代と規定し、学習指導要領で教員の国旗・国歌の指導義務が定められている。そうした法律に根拠を求めるまでもなく、国旗・国歌の指導は公教育の重要な役割の一つである。
卒業式や入学式で、一部教員が今回の判決に便乗して厳粛な雰囲気を乱すような事態は避けたい。校長や教委は今回の判決にこだわらず、自信をもって指導にあたってほしい。