大相撲時津風部屋の若手力士が愛知県でけいこ後に急死した問題は、制裁目的の暴行が原因として、元時津風親方と兄弟子三人が傷害致死の疑いで愛知県警に逮捕される事件に発展した。
相撲部屋のけいこをめぐり、親方と兄弟子が逮捕されるのは前代未聞の事態である。長い歴史を誇る角界に大きな汚点を残したといえる。遺族の無念さに心が痛むとともに、全国の大相撲ファンの期待を裏切った罪は重い。
県警によると、若手力士は昨年六月二十五日、部屋から逃げ出したことを理由に元親方らからビール瓶などで殴られ、翌日、兄弟子数人による激しいぶつかりげいこの直後、意識を失い死亡したとされる。その際、金属バットも使われたという。
県警は若手力士に骨折などを負わせて多発外傷性ショックで死亡させたと判断した。リンチまがいの暴行やぶつかりげいこは、元親方の指示で行われたとする。
強くなるには厳しいしつけやけいこは必要だろう。だが、ビール瓶や金属バットで殴るのは論外だ。親方は相撲部屋で絶対的な権限を持つ。それだけに力士の健康管理などに重大な責任を負う。今回の事件は親方の主導で起きたとされる。事実なら悪質としか言いようがない。真相究明を急いでもらいたい。
警察の対応のまずさも問われる。当初からけいこに名を借りた暴行という見方が多かったが、若手力士が急死してから立件するまでに七カ月余りかかった。初動捜査のミスが原因といわれる。
急死した際に事件性のない病死と判断し、司法解剖をしなかったからだ。疑問を抱いた遺族の訴えで解剖が行われ、事件になった。もし遺族が声を上げなかったら、闇に葬られた可能性が高い。
警察現場では「病死で処理した方が楽」という意識が強いという。検視官不足など物理的な要因も指摘されるが、警察官の意識改革と体制整備が欠かせない。
日本相撲協会の危機感の薄さも問題になった。北の湖理事長は「警察にお任せするのが一番」などと、当事者意識が欠如したような発言が目立った。批判の高まりを受け、昨年秋に「再発防止検討委員会」を設けたが、まだ各部屋の視察段階である。
事件の背景には暴力を容認する相撲部屋の古い体質や閉鎖性があるといわれる。悲劇を繰り返さないために、抜本的な運営の見直しなど実効性のある再発防止策が必要だ。特に再選されたばかりの北の湖理事長は、強い指導力を発揮しなければならない。
「宙に浮いた」年金記録の問題で、社会保険庁が年金記録を見つけるための手引を追加した改訂版「ねんきん特別便」の発送を始めた。
五千万件の年金記録の持ち主を探すため、社保庁は昨年十二月中旬に特別便発送を始めた。だが、年末までの発送分の集計では回答した人は全体の三分の一程度で、うち85%が「訂正なし」だった。記録漏れがあるのに気付いていない人が相当数いると推定され、特別便の記載内容の分かりにくさや、他人の「なりすまし」を警戒する社保庁が記憶を手繰るヒントを与えなかった点が批判された。
既に送付済みの人にも送られる改訂版の手引では、加入履歴一覧の見本を示し、未加入になっている空白期間の見つけ方を例示した。また、加入歴全体の前や後にも加入の事実がないかを尋ねるなど注意を促している。
相談窓口の対応も変えた。本人が思い出せない会社名などを、氏名や生年月日が同じ人がいない場合は教える。同じ人がいる場合や電話での相談では情報の一部を伝えるようにした。
しかし、本人の申告に基づいて記録を訂正する申請主義は変わっておらず、ヒントは相談しないと得られない。記録が訂正されれば年金支給額が増える可能性が高い。改訂版特別便を受け取った人は手引を参考に記憶を手繰り、訂正個所がないか十分にチェックしたい。相談窓口も積極的に活用すべきだ。
社保庁は短期間で特別便の改訂版を出さざるを得なくなった事態を反省しなければならない。新たな手引だけで効果が上がるのか、疑問視する声もある。受給者サイドに立って、なお照合のやり方を検証していく必要がある。
(2008年2月9日掲載)