2001.11.7
アトピー性皮膚炎不正治療薬問題について
過日新聞報道にもありましたが,中国製アトピー性皮膚炎治療薬の不正使用,販売についての情報をお知らせします.
「皮炎霜」という薬が「ステロイドを含まないがアトピー性皮膚炎に劇的に効果がある薬」と称して,広く出回っていますが,当委員会の調査により,実際にはstrongestのプロピオン酸クロベタゾールを含有していることが判明しました.本薬は乳児,顔面(特に眼の周り)などにも保湿クリーム代わりに使用されているケースもあることより,新聞報道により,皮膚科専門医に皮膚障害のチェックや治療に受診されることもあるかと思いますので,会員の先生方にはよろしく対応をお願いします.また,他にも数種の治療薬が流通しており,strongestないしvery strongのステロイドが混入されていることより,過日,これら不正薬の販売差し止めのための要望書を厚生労働省に提出しました.以下は,当日の記者会見で資料とした概要です.
アトピー性皮膚炎治療問題委員会
委員長 竹原 和彦
中国製アトピー性皮膚炎治療薬「皮炎霜」の
不正販売及び類似薬の流通,
更にそれらの薬剤による健康被害の拡大防止について
―会見資料―
【1】本件の概要について
日中合弁会社製造,日本向け限定でステロイドを含有せず,アトピー性皮膚炎に劇的に効果があるとする「皮炎霜」という薬が爆発的に使用されている.ところが,日本皮膚科学会・アトピー性皮膚炎患者相談システムへの相談に端を発した調査より,同薬には最強ランクのステロイドであるプロピオン酸クロペタゾールが含有されていることが判明した.この結果は福岡県保健福祉部の調査においても確認されている.これは中国では薬の成分の公開義務がないことを盲点とした,日本国内業者の「アトピービジネス」であると推察される.
ステロイド外用薬の適正使用こそアトピー性皮膚炎の治療のポイントであるが,本薬は最強ランクのステロイドを含有しているにもかかわらず,乳児や顔面に対しても非ステロイドと信じられたまま,安易に広く使用されており,顕在化はしていないものの,既にその健康被害は広く拡大しているものと推察される.
過日,日本皮膚科学会・アトピー性皮膚炎治療問題委員会(以下,当委員会)は,厚生労働省に対して本案件に関する情報提供を行い,健康被害拡大防止のための対策を要望したところ,本年9月7日福岡県厚生部より公表されたごとく【3】のCに示した個別販売を行っていた業者(アレルギー自然療法研究所コスモス)に対して,販売差し止め並びに販売済の同薬の回収の指導の措置がとられた.同時に同業者が販売する水生成器のホームページの表記についても問題があり,内容の訂正並びに製品の回収が同社のホームページで公表されている.
しかしながら,皮炎霜の流通経路は【3】で示したごとく,複雑にわたり(少なくともA〜C),今なお相当数の患者が劇薬指定の成分であるプロピオン酸クロベタゾールが含有されていることを知らずに同薬を使用し続けていると考えられ,不適切な使用による健康被害が潜在的に増加していると推察される.
本件並びにその周辺には日本の医療の根幹にかかわる大きな問題が含まれており,本日厚生労働省に対して要望書を提出し,それらの諸問題に対する対応を依頼した.
【2】本件に関するこれまでの動き
- 日本皮膚科学会・アトピー性皮膚炎相談窓口に対して「皮炎霜」という中国で製造された非ステロイド外用薬を医療機関から渡され使用したところ劇的な効果があったが,本当にステロイドが含まれていないかどうか分析をしてもらえないかという依頼の相談があった(2001年3月)ただし,類似薬「皮
(膚)霜」について同薬の相談はそれより以前の2000年7月にあった.
- その後,「皮炎霜」及び他の中国製アトピー性皮膚炎治療薬について同様の相談が相次いだ.
- 成分が特定されていないままの状況で微量のステロイド含有の有無を分析することは極めて困難であるため,ステロイド外用薬製造主要会社へ自社成分の含有の有無の簡易分析を依頼した(2001年4月).
- 複数のステロイド外用薬製造会社より,プロピオン酸クロベタゾールが含有されている可能性が高いと報告があった.更にそのうち1社からは,その含有量は0.049%と日本で承認されているプロピオン酸クロベタゾール(軟膏剤)とほぼ同一の含有量と報告があった.また他社よりは成分確認試験を行い,最終結果を8月末に報告予定と連絡があった(2000年5月).
- 電話,FAXにて厚生労働省・監視指導課へ第1回目の情報提供と薬事法違反かどうかについての問い合わせ(2001.5月末).
- 厚生労働省関係者を通じて,第2回目の監視指導課への情報提供と行政指導を依頼(2001.7月).
- 前述のステロイド外用薬製造会社より,皮炎霜にはプロビオン酸クロベタゾールが含有されていたことの確認試験結果の報告があった(2001年8月末).
- 福岡県保健福祉部より,下記の【3】のC のルートであるアレルギー自然療法研究所コスモスに対する販売中止の指導と回収措置がとられているとの発表があった(2001年9月7日).
- 現時点で皮炎霜並びに類似薬に関する情報及び問題点について,厚生労働省へ報告,情報提供と要望書の提出(2001年9月14日).
- ★ プロビオン酸クロベタゾールの製造特許は世界中で期限が切れており,我が国において10社,世界中では最低でも数十社が製造しており,原末の入手先の特定は現状においては困難である.
【3】皮炎霜についての普及ルート
- インターネットのホームページより個人輸入
〈sun dragon〉(日龍:日中合併会社)
- 医師による個人輸入→患者へ有料で配布
ステロイドは含有されておらず副作用の心配はないが,効果は劇的であると説明.
- 個別販売
特にはっきりしているのがアレルギー自然療法研究所コスモスであり,直接販売で輸入代行ではない.過日,福岡県よりの指導があった.
【4】問題点
要望書に詳述したが,ここでは最も重要なものより順にそのポイントのみを記した.
(1)中国で成分公表義務がないことを盲点とし,劇薬が「副作用のない中国製秘薬」として広く流通することの危険性について
- 個人輸入という形式をとれば一応合法として取り締まれないのか?
- 今回の条件は,日中合弁会社による日本向け限定品であり,通常の漢方薬と異なり,明らかに日本国内業者によって計画された許欺的商行為である.
- したがって,製造会社及び責任者の特定とその責任の追及が必要である.
- 中国で製造すれば成分は公開する義務はないという盲点をついた不正薬が今後アトピー性皮膚炎領域のみならず他領域でも模倣されないための行政の対応又は薬事法の見直しが必要である.
(2)今なお広く使用され続けている「皮炎霜」による潜在的健康被害について
- 皮炎霜の普及ルートは最低でも3つあり,今回自主回収となったのは,そのうちの1つ(アレルギー自然療法研究所コスモス)に過ぎない.
- 医療機関においても「ステロイドではないから安全」という説明の元に保湿クリーム代わりに安易に乳児や顔面に使用されているケースが多々あり,潜在的健康被害が拡大していると考えられるため,これら患者に対して広く情報を提供し,潜在的な健康被害の有無のチェックを受けさせる必要がある.また,これらに関する費用や健康被害の補償は,製造業者,販売会社,配付した医療機関に負担させるべきものである.
- 皮炎霜にはAZONEという日本では使用が禁止されている発癌性を有する物質が混入されているとの未確認情報があり,その特定が必要である.
(3)類似の案件について
- 個人輸入の代行の形式をとった類似薬「非ステロイドで安全で劇的効果をもたらす中国製秘薬」と称する類似薬が数多く出回っており,それらについても調査や行政指導が必要である.
- すでに当委員会に健康被害の訴えが寄せられている例として,同じく福岡県のアトピー水研究所という業者が水生成器に加えてステロイドが含有されていないと称するスキングローペースト(中国名:皮
(膚)霜)を個別販売しており,すでに指導を受けたアレルギー自然研究所コスモスと極めて類似した商法を展開している(水生成器と皮膚用クリームの組み合わせ).
なお,皮
(膚)霜及びATOPI CREAM(C.S.D.C.C.という業者によりホームページで広告)には,簡易試験で皮炎霜と同じプロピオン酸クロベタゾールが含有されている可能性が高いことが明らかになった.
- 上記の皮
(膚)霜はホームページでは個人輸入代行商品と表現しているが,実際のユーザーの話では特に輸入代行依頼などの手続きはとっておらず,単に個人輸入代行と謳っている疑惑がある.
- 「皮炎平」という商品のホームページでは,ごく最近になり「ステロイド系の成分は一切含まれておりません」という表現が消去している
(4)アレルギー自然研究所コスモスの対応について
- 公表された販売数の割には自主回収が進んでいるように思われない.
- 自主回収のみならず,健康被害の有無のチェックのための医療機関受診の費用や健康被害の補償の責任も負わせるべきである.
- 同時に問題となった水生成器に関しては強酸性水のみを回収し,電解還元水については回収していない.
- 効能効果について不当な表現があったとする電解還元水については,ホームページの次のページでアトピー性皮膚炎の効果を謳うビデオプレゼントと広告されており,指導が守られていない.
- 以上より,同業者への更なる反省と行政による断続的かつより厳しい指導が必要と思われる.
(5)今回の案件の詳細を明らかにし,情報を広く公開することによって,いわゆるアトピービジネス又は医療ビジネスによる健康被害の拡大を防止することが期待される.
追記
9月14日に厚生労働省に対して上記要望書を提出し,翌15日に全国紙にて本件が報道されたことを受けて,当委員会には,500件以上の中国製アトピー性皮膚炎治療薬についての問い合わせがありました.その中には,他の外用薬に関して,ステロイドの含有の有無を問い合わせてきたものが多かったため,6種について分析致しました.その結果「皮炎平」,「999皮炎平」,「内宮養顔霜」,「皮痒膏」の4種については,マイルドランクの酢酸デキサメタゾンが検出されました.
長期に顔面に使用している例では,酒さ様皮膚炎の発生も懸念され,これら中国製アトピー性皮膚炎治療薬の長期使用者が,皮膚科専門医を受診することも予想されるため,各位には,上記の情報を念頭によろしく対応をお願いします.

社団法人日本皮膚科学会
http://www.dermatol.or.jp