山香町夫婦致死傷事件
別府大(大分県別府市)の元留学生5人が2002年1月18日未明、同県山香町日指の建設会社会長吉野諭さん=当時(73)=宅に強盗目的で侵入。妻恵美子さん(75)を包丁で刺すなどして1カ月の重傷を負わせ、助けに入った吉野さんも刺して死なせた。
同県警は同年2月、中国人2人と韓国人1人の計3人を逮捕。大分地裁は4月15日、強盗殺人などの罪に問われた3人の殺意を認めず強盗致死罪などを適用、無期懲役―懲役14年(求刑死刑―懲役15年)を言い渡した。主犯格とされる中国人2人は帰国して逃亡中で、吉野さんを刺した実行犯は特定されていない。韓国人被告と検察側は控訴中。
深く読む・核心に迫る、追う=山香町夫婦致死傷から3年余 留学生との共生模索 “顔見える関係”へ 地域でネットワークを
(2005年05月19 日掲載) ●山香町(大分)夫婦致死傷から3年余
「志を持って入国したのになぜ、事件にかかわったのか。正面から考えてほしい」。大分地裁で四月十五日にあった山香町夫婦致死傷事件の判決公判。鈴木浩美裁判長は判決文の朗読後、元留学生の三被告に諭した。人口比の留学生数が、東京都に次いで全国二位の大分県。裁判長の言葉は、大学や地域にも重く受けとめられた。経済的困窮も一因と指摘された同事件から三年余り。教訓は生かされたのだろうか。留学生と向き合おうとしている現場を取材した。
(大分総局・永松英一郎、別府支局・飯田崇雄)
◆自治会の準会員
五百六十三人の留学生が在籍する大分県別府市の別府大学。キャンパス周辺の上人西町自治会の中野英治会長(70)は判決について、こう語った。
「事件は特殊な留学生による犯行だろうが、当時、彼らと交流がほとんどなかったのが悔やまれる。留学生をより身近に受け入れることは、地域の安心にもつながることが分かりました」
同自治会は事件直後の二〇〇二年四月、会則を変更し、留学生を準会員として受け入れている。浴衣を無料提供して地域住民と踊る「ゆかた祭り」、もちつき大会、グラウンドゴルフ大会、お茶会のほか、定期的に不用な家具類を集めて寄付もしてきた。「地域の一員」とのスタンスで接した成果だろう。「深夜に騒いでうるさい」「ゴミを散らかす」など留学生への苦情も激減した。
大分県内の留学生数は二千七百九十三人(昨年十一月現在)。中でも、立命館アジア太平洋大学(APU)もある別府市は、県全体の八割超の約二千四百人が居住する。市民生活の中に押し寄せる急激な国際化に、地域住民の意識も変化してきたようだ。
◆経済支援は限界
別府大も事件後、教職員約三十人による留学生委員会を設置。二日続けて無断欠席した学生には自宅を訪ねて相談に乗り、最高五万円を無利子で貸し付ける制度を設けた。APUも、清掃や事務など外部委託していた学内の仕事を留学生アルバイトに回すなど、生活支援の動きは広がったが、限界があるのも事実。
ある大学関係者は「無利子融資も焦げ付く可能性が高く、資格基準を厳しくせざるを得なくなった。活用者はほんの一部」と打ち明ける。
昨年十月から別府大別科で日本語を学ぶ中国山東省出身の男子留学生(19)の場合、日本語がまだ上手に話せず、アルバイトが見つからないでいる。住まいは、トイレと風呂が共同の一万五千円の四畳半アパート。予想以上に高い日本の物価に、両親が持たせてくれた約五十万円は残り十万円を切った。別府市国際交流室によると、飲食店や観光施設のアルバイトも、留学生が増えて飽和状態になってきたという。
◆豊かな能力活用
国内の留学生は十万九千五百八人(〇三年度、文部科学省調べ)で、その十年前から倍増。九州大学の友枝敏雄教授(社会学)は、経済格差のある国からの留学生が増える現状を踏まえて指摘する。
「今後も、生活苦を引き金に凶悪事件が起こる可能性はある。留学生には地域の中で共生できるかが、日本社会で試されていくことになる。留学生と“顔が見える付き合い”をするため、大学や地域は意識的にネットワークづくりをすることが求められている」
その実践例が、大分県が約七百万円で開発したインターネット上の留学生人材バンク「アクティブネット」だ。昨年十月に自治体と各大学・短大、商工会議所などで発足した留学生支援のNPO法人「大学コンソーシアムおおいた」が運営。国際色豊かな能力を地域のビジネス、観光、教育、福祉などに活用しようとの狙いだ。登録者は現在、留学生が約五百六十人、地域側は約百団体。
別府市で印刷会社を営む杉本恵子さん(62)は同ネットを活用している一人。斬新な市内案内地図の作製に留学生六人から知恵を借りている。杉本さんは「地域の活性化に留学生の存在は欠かせなくなってきた」と確信している。留学生と地域が互いに必要となる関係づくりへ、模索が続いている。
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