主要ツールは「ケ一夕イ」へ画像の売買、交換の主要なツールはもはやパソコンから携帯電話になりつつある。カメラ付き携帯で容易に盗撮などを行えるようになり、マニアたちがサークルを築き、その画像を携帯メールで交換し合っている。 05年1月、神奈川県の警察署を母親が訪ねてきた。15歳の娘が中年の男に携帯電話でわいせつ画像を撮られたという。撮影した32歳の無職の男は、携帯電話などに約600枚の児童ポルノを保管。ほとんどがマニアのサークルで交換したものだった。 メンバーは北関東から長崎まで15人。自営業者が開設した携帯電話の児童性愛者向けサイトで知り合い、居酒屋で「オフ会」を開き、信頼できる相手と確認したうえで、それぞれの持つ画像を交換していた。 30代の会社員は高校時代からロリータ雑誌を読み、結婚後もやめられない。妻の留守中に7歳の娘のわいせつ写真を撮り、営業の合間に携帯電話で仲間に送っていた。会社員は警察で「すごい写真を持っていると自慢したかった」とうなだれ、娘は「嫌だったけれど、誰にも言えなかった。お父さんが大好きだったから」と泣いた。 児童買春・児童ポルノ禁止法は04年7月の改正で、販売や公然陳列などにくわえ、単純製造(画像の撮影)▽マニア間など特定少数への提供▽提供目的の所持▽画像データの送信──なども新たに処罰の対象となった。販売も提供も目的としない「単純所持」も禁止規定に盛り込むことが検討されたが、「警察権限を拡大し、プライバシーが侵害される」などの慎重論が根強く、先送りされた。このためこのサークルのメンバーは4人が逮捕・送検されたが、残る11人は画像の送信履歴が残っておらず、立件されなかった。 財団法人インターネット協会は「児童性愛者は今やネット上で簡単に仲間を見つけられるようになった。そのため『自分はさほど異常ではない』と安心し、コミュニティ意識を強めている」と話す。こうしたサークルがバーチャル世界でのつながりを超え、現実に子どもに危害を加えるようになった事件もある。06年8月に埼玉・宮城両県警が摘発したグループは画像の交換にとどまらず、複数で少女にわいせつ行為をして撮影していた。メンバーには法務局や郵政公社の職員、自衛官、漫画家もいた。 難しい製造元の特定児童買春・児童ポルノ禁止法の施行後、日本発の画像は一時減る。しかし、NGO「ECPATスウェーデン」によると、05年4月から8月までに開局となったサイトのホスト先は[1]米国[2]日本[3]ロシア──の順に多い。 インターネット上の児童ポルノ摘発は今や各国共通の課題だ。欧米諸国には児童ポルノを発見した市民が通報するホットラインがあり、主要国でネットワークを形成し、情報を交換している。日本でも06年6月、さまざまな違法・有害情報を対象にした「インターネット・ホットラインセンター」が開設された。受理した情報には、 [1] 違法なものは警察へ通報 などの対応をしている。 9月までの4ヵ月間で受理した違法情報は1086件。このうち292件が児童ポルノの公然陳列だった。プロバイダに削除を依頼した情報の8割はネット上から消えた。 しかし、違法情報の4分の1は海外のサーバーが利用されている。サイトの開設者を特定するには、インターポールを通じて相手国の警察当局に捜査協力を求める必要があり、摘発までに時間がかかる。プロバイダへの削除要請では「自分たちが販売しているわけではない」と応じない所もあるという。 ウィニーなどファイル交換ソフトやインターネットオークションなど、新しく現れる技術や市場がその都度、児童ポルノの交換、販売の抜け道となってきた。ホットラインセンターの吉川誠司氏は「最近の問題は携帯電話の画像変換サイトへの投稿だ」と言う。 撮影したポルノ画像を携帯の投稿掲示板にアップロードする際、いったん画像変換サイトに送り、返送されたURLを掲示板に貼り付ける。別のマニアがURLをクリックすると画像が現れる。誰が投稿したかを突き止めるには、画像を変換サイトに送った人物とURLを貼り付けた人物が同一であることを立証しなければならない。 児童ポルノとして立件された画像が再び出回るのを防ぐため、警察庁は「児童ポルノ画像自動検索システム」を各都道府県警で稼動させている。しかし容疑者を特定する前に画像が消されてしまうケースもあり、02年の運用開始以降、立件されたのは1件しかない。また、こうしたサイトには管理者が「鍵」を与えた者しかアクセスできないものもあり、警察庁少年課は「マニアが画像を交換していると疑われるサイトがあっても、強行に侵入して犯罪性が認められなければ、こちらが不正アクセスになってしまう」と漏らす。
情報提供:中央公論新社
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