県内の医療機関で「助産師外来」が広がっている。人手不足が深刻な産科医に代わり、助産師が妊婦の健康診断の一部を担当するものだ。
医師の負担を軽くする手段として注目されているが、それだけではもったいない。お産の環境が厳しくなったいまだからこそ、女性が安心して出産に臨める場づくりにつなげたい。
通常の妊婦健診では、計測や超音波検査などが行われ、医師の診察を受ける。助産師外来は、医師に代わって、助産師が対応する。
2月1日から、松本市の信大病院と上田市産院で助産師外来が始まった。県内では、このほか16の医療機関に置かれている。
信大病院では、平均15回の妊婦健診のうち、3−4回を助産師が受け持つ。経過が順調な場合、医師の診察は普通は数分だが、助産師外来では一人約30分かける。超音波検査や保健指導などを含め、ゆっくりと話ができるのが特徴という。
助産師外来の設置は、医師不足が深刻になったのが一因だ。県内では出産を扱う医療機関は2001年に68あったのが、医師の異動や開業などで休止が相次ぎ、今年4月には47になってしまう。
残った病院の産科は受診者が増え、さらに医師の負担を増やす悪循環が続いている。外来患者の一部を助産師が受け持つことで、勤務医の負担を少しでも減らそうといった狙いがある。
妊娠すれば、体調の変化や育児の不安など、心配ごとは尽きない。かかりつけの病院で、妊婦がじっくりと相談できる場所が増えるのはいいことだ。
助産師は検査や数値に頼るだけでなく、妊婦の不安や悩みを引き出し、問題解決につなげる対応をしてほしい。育児不安の解消や虐待防止といった効果が期待できる。信頼関係を築ければ、医療訴訟のリスクを減らすことにもなるだろう。
今年は産科休止が続き、県内でも“お産難民”が出そうな状況になっている。産科不足にてこ入れするには、助産師の力をもっと活用する必要がある。
正常なお産のときは、助産師が介助する「院内助産所」という選択肢も考えられる。県の調べだと、10余りの病院が設置を検討している。地域で開業している助産師と医療機関が連携し、少しでもお産の場所を守ることも大事だ。
そのためには、出産の場で働く助産師の数を増やし、お産を介助する技術などレベル向上を急ぐ必要がある。助産師が専門職として力を発揮できるよう、医師や患者の理解と協力も欠かせない。