◎住民税徴収率が低下 税源移譲に水差しかねない
政府の三位一体改革による税源移譲で昨年から引き上げられた個人県民税の徴収率が、
石川、富山県で前年同期を下回っていることが分かった。税源移譲では国の所得税が地方の住民税(県民税、市町村民税)に移し替えられたが、地方の自主税源がせっかく増えても、集め切れなければ移譲に見合う税収は望めない。徴収率の低迷が続けば税源移譲の流れにも水を差しかねないだろう。
個人住民税は県民税、市町村民税合わせて市町村が一括徴収する仕組みである。税源移
譲前は、所得税から地方への配分は税の徴収能力に関係なく行われていたが、移譲後は税金滞納が多ければ、その分の税収は減ることになる。市町村は税源移譲で徴収能力が問われていることを認識し、県と連携して体制を強化してもらいたい。
個人県民税の徴収率は昨年十一月末時点で、石川県は52・6%と前年より2・3ポイ
ント、富山県は49・7%と2ポイント下がった。総務省の調査でも全都道府県で1・9ポイント減の49・9%と低迷し、〇七年度の年間徴収率は三年ぶりに減少する可能性が出ている。市町村が一括徴収する仕組みを考えれば、市町村民税の徴収率も県民税と同様の傾向とみられる。
個人住民税はサラリーマン以外では、自営業者や年金生活者などの納税額が約三割を占
める。そうした人たちの間で、住民税の引き上げ後から一括納税の分納への変更や分納回数を増やすケースが相次いだことも徴収遅れの背景にあるらしい。
税制の不公平感を表す言葉の一つに「クロヨン」(給与所得者九割、自営業者六割、農
業所得者四割)がある。税金を給与から天引きされるサラリーマンと違って他の業種は所得の把握が難しいため取り漏れが大きく、この「所得捕捉率」の差が問題視されてきたが、今も解消されてはいない。個人住民税の徴収率の低下はそうした不公平感をさらに広げることになるだろう。
小規模な自治体ほど納税者との距離が近く、差し押さえなどの強制処分をためらう傾向
もみられるが、再三の督促に応じない悪質な滞納者については毅然とした姿勢で臨む必要がある。県も直接徴収を強化するなど、市町村と一体となって徴収強化策に知恵を絞ってほしい。
◎衆参両院協議会 「儀式」のままでよいのか
参院で否決された二〇〇七年度補正予算案が衆参両院の協議会を経た上、衆院の議決優
先原則に従って政府案通り成立したことは、憲法の規定に則したものであり、その手続きに疑問をはさむ余地はまったくない。ただ、国会の意思決定の仕組みとして用意された両院協議会は形がい化し、衆院の議決通りに事を運ぶための一種の「儀式」になっている現状には疑問も残る。ねじれ国会の今は、両院協議会の在り方を考え直すよい機会であり、憲法の理念に沿って実効性のある制度に改めることを真剣に検討してはどうか。
両院協議会は予算案、首相指名選挙、条約の承認に関して衆参両院の議決が異なった場
合は必ず開催しなければならず、協議会でも意見が一致しないときは、衆院の議決をもって国会の議決にすると憲法で定められている。その他の法案の議決で衆参が対立した場合にも、協議会を任意に開くことができる。この憲法規定は、現在のねじれ国会のような事態に備えるもので、衆参の意思が異なったときは、両院協議会で成案を得る努力をすることを、まず与野党に要請しているのである。
しかし、協議会で与野党が折り合うことはほとんどない。衆参各十人の協議会委員は、
両院それぞれの議決に賛成した会派から選ぶのが慣例になっている。つまり賛否同数で、いくら協議しても整わないことが最初から決まった形であり、実際の協議会は、衆院の議決を国会の議決にするための単なる手続きになっているといってもよい。
こうした状況は二院制の下の政党政治ではやむを得ず、ある意味で当然な面もあるが、
法案修正で与野党が議論し、合意点を見いだす場として両院協議会を生かすことをもっと積極的に考えてよいだろう。現在の協議会委員の選考の仕方は慣例であり、法令で決められているわけではない。実質的な協議を行えるよう、当事者能力のある与野党代表で構成する方法もある。
法律制定の仕組みが異なるとはいえ、米議会では上下両院協議会で法案の一本化調整を
行うことは珍しくない。外国の事例も参考に、国会を機能させる新たな仕組みやルールづくりを研究してもらいたい。