三年先のけいこ、と相撲界では言う。すぐに力がつくわけではないが、日々の精進が蓄えとなって大成の日を迎えるという。地道な努力を美徳とするわれわれの大好きな言葉である 本物のプロの世界は、良い言葉を生み出してくれる。「かわいがり」と呼ばれる制裁も、もとは本人のためを思う愛のムチだったに違いない。それを集団リンチと履き違えた元親方や兄弟子が逮捕され、国技の威信が地に落ちた 地方巡業の折、北陸では土俵での「花相撲」より会場付近でのけいこを楽しみにするファンが多いと聞く。地面に円を描いただけの土俵で行われる「山げいこ」である。本来、人に見せるけいこではない。苦しくて血へどを吐く力士も出てくる。そんな厳しいけいこに相撲好きは目を奪われ、目を肥やしていく 山げいこは、息絶え絶えになった力士の「ごっつあんです」というあいさつで終わる。しごきにしごかれた揚げ句、ありがとう、ごちそうさま、と口を出る言葉も美しく響く 急死した若い力士は、「ごっつあんです」の意味も知らぬままに倒れ、命を失ったのではなかろうか。相撲の美しさなど、みじんもない。
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