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2008年02月08日(金曜日)付

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親方逮捕―相撲協会は土俵際だ

 時津風部屋の前親方と兄弟子3人がついに逮捕された。長い大相撲の歴史でも前代未聞のことである。

 昨年6月、17歳の新弟子によってたかって暴行を加え、死に至らしめたというのである。当時の親方がビール瓶で殴ったうえに、兄弟子らが金属バットで殴ったり、足でけったりした。その翌日には、ぶつかりげいこと称して、激しいしごきをしていた。

 前親方は「こづいた程度だった」といい、けいこも通常のものだったと抗弁していた。

 しかし、親方の指示をきっかけに一連の暴力が振るわれたとして、警察は逮捕に踏み切った。逮捕された3人の兄弟子のほかにも、数人の兄弟子が暴行に加わったとして書類送検される見通しだ。

 親方を先頭にした部屋ぐるみの犯行と断定されたわけだ。時津風部屋は親方が交代したとはいえ、その責任は重い。

 責任を問われるべきなのは、相撲協会も同じだ。夢を抱いて入ってきた新弟子が、リンチで若い命を失う。若い力士を預かる相撲協会としては、深刻に受け止めなければならない。

 ところが、北の湖理事長は、まるでひとごとのように親方の責任を口にしていた。事件から3カ月後、文部科学省に呼びつけられて、ようやく重い腰を上げたが、当時の親方から数回事情を聴いて解雇しただけだ。

 何が起きたのか、背景は何かという調査には手をつけないままである。過去に起きた同じような死亡例についても、きちんと調べたようには見えなかった。

 相撲界は各部屋の独立性が強い。そこは外部の目が限られる世界だ。だからこそ、徹底した調査と外部の人たちも納得させる説明が必要だった。事態の深刻さに比べ、この7カ月間の北の湖理事長の動きは鈍かったといわざるをえない。

 こんな北の湖理事長が今月初めの役員改選で、すんなり4選が決まった。相撲協会内では、正面切って異論や疑問が唱えられることもなかったというのだから、驚いてしまう。

 事件を受けて、外部の識者を加えた再発防止検討委員会が設けられた。しかし、提言が出てきても、今の協会では活用されるかどうか心配だ。

 相撲協会は横綱朝青龍が巡業をさぼってモンゴルに帰国していた問題でも、きちんとした対応をとることができなかった。直接の責任は本人と親方にあるにしても、協会としてどう取り組むのかの視点が欠けていた。

 出場停止処分から戻った朝青龍と白鵬の横綱対決で初場所は久しぶりに盛り上がったが、その裏側で協会の自壊は進んでいるといっていい。

 相撲協会は外部からも人材を迎えて、人心を一新し、一から出直すべきだ。そうしなければ、将来の関取をめざす若者は尻込みするし、ファンも離れていくだろう。

ガソリン税―論戦で修正の糸口を

 新年度予算案をめぐる国会の論戦が幕をあけた。最大の焦点は「道路」だ。

 民主党が仕掛けた「ガソリン値下げ」の攻防は、衆参両院議長のあっせんで与党が「つなぎ法案」を取り下げて水入りの形となった。各党は年度内に一定の結論を出すと合意した。その期限まで残すところ2カ月足らず。与野党は精力的に対立打開に動かねばならない。

 やるべきことははっきりしている。あっせん合意に盛られた「立法府での修正」に向けてそれぞれの主張をぶつけ合い、法案の修正をめざすことだ。

 問題は、ガソリンの値段を下げるかどうかにとどまらない。毎年、社会保障費が2200億円も削られる一方で、向こう10年間で59兆円ものカネをつぎ込む政府の道路整備計画が妥当なのか。ガソリン税を道路だけにしか使わせない特定財源制度をこのまま続けるのか。道路問題の根っこは広く、深いのだ。

 民主党は、道路特定財源を福祉や教育など何にでも使える一般財源にすることを公約に掲げてきた。ガソリン値下げだけでなく、議論の土俵を大きく広げて政府・与党に論戦を挑んでもらいたい。

 一般財源化は、小泉内閣の時は「構造改革」の旗じるしのひとつだった。だが道路族議員らの抵抗で、安倍内閣では「真に必要な道路整備は計画的に進める」と押し戻され、福田内閣では「10年で59兆円」という巨大な道路づくり計画を認めることになった。構造改革の明らかな後退である。

 そういえば、福田氏が首相のいすに座れたのは道路族議員らの後押しがあったればこそだった。だから首相は道路族には逆らえないのか――。そう勘ぐられても仕方あるまい。

 そうではないというのなら、首相はこれからの論戦で次の点について具体的な考えを明確に語ってもらいたい。

 59兆円の積算根拠は何なのか。なぜ特定財源という硬直的な仕組みを10年も続けるのか。まず一般財源化し、そのなかから必要な道路をつくるというやり方ではどうしてダメなのか。

 民主党にも聞きたい。ガソリンの暫定税率をやめれば、歳入が2兆6000億円減る。「地方財政に迷惑はかけない」というなら、財源をどう手当てするのか。

 民意は一様ではない。地方の知事や議員らはこぞって今の仕組みを維持するよう求めている。これに対し、朝日新聞の世論調査では54%の人が一般財源化に賛成し、75%が道路整備計画を「減らすべきだ」と答えた。この問題で与野党の歩み寄りを求める人は55%いた。

 双方とも、言い分を100%通すわけにはいかないのが「ねじれ国会」だ。委員会審議で意見をぶつけ合ったうえで、できるだけ早く福田首相と小沢民主党代表の党首討論を実現させてもらいたい。

 両者の対立点をはっきりさせ、そこからどう修正作業を進めていくか、打開への糸口を見いだすべきだ。

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