イカナゴといえばくぎ煮を思い浮かべる。卵とじやさっとゆがいてポン酢で食べてもうまい。
エッセー集「瀬戸内こころの旅路」(山と渓谷社)の中で、水産研究家鷲尾圭司さんは「春告げ魚として名があげられるものに、イカナゴやメバルがある」と書いている。早春に店頭で見掛けるようになると春を感じる。瀬戸内ならではのぜいたくである。
鷲尾さんは「沖合の潮目に大群をなすイカナゴは瀬戸内でもっとも大切な多獲性魚で、食用や冷凍餌として漁獲されるほか、スズキやタイ、サワラの天然餌として重要な役割を果たしている」とも記す。瀬戸内海の生態系はイカナゴのおかげといえる。
岡山県沖はイカナゴ漁が盛んだが漁獲量は減少した。主な理由は、コンクリート骨材などに使われてきた海砂の採取にあったとされる。イカナゴは冬場に海底の砂地に産卵し、夏には砂に潜って眠る。海砂採取はイカナゴにとって致命的な打撃となる。
環境保全意識が高まり、岡山県沖の海砂採取は二〇〇三年度から禁止された。以降、漁獲量は次第に増えている。回復への確かな手応えである。岡山県水産試験場も過去に行っていた生息調査を今年から復活させた。海砂採取禁止効果などを検証する。
壊した環境を取り戻すことは並大抵ではない。それでも有効な対策をとれば、豊かな海は帰ってくるはずだ。