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【社説】

ヤフー買収提案 波紋広げるMSの攻勢

2008年2月5日

 パソコンソフトの巨人、米マイクロソフト(MS)が大手ネット検索サイトの米ヤフーの買収に乗り出した。資本の力が前面に押し出されているが、多様な個性を尊ぶネットの文化も大切にしたい。

 マイクロソフトは基本ソフト(OS)のウィンドウズで九割以上の世界シェア(市場占有率)を持つガリバー企業だ。

 そのガリバーが旧来のソフト分野から打って出て、新市場のネット検索で二位のヤフーを買収し、首位のグーグルを追撃しようというのが今回の買収提案の大きな構図である。

 マイクロソフトが提示した買収総額は約四百四十六億ドル(約四兆七千五百億円)。ヤフーの直近の株価より62%上乗せした。

 マイクロソフトの収益を支えてきた二本柱の一本であるウィンドウズは改良に限界が見え始め、もう他方のオフィスソフトもネット上での無料提供が増えつつある。

 得意分野に陰りが見え始めたのに加え、広告収入の伸びが期待される検索市場でも、マイクロソフトのシェアは約9%(米国)にとどまっている。その危機感が大胆な買収作戦の背景になっている。買収の成否はIT業界の行方を決める分水嶺(ぶんすいれい)にもなりえよう。

 だが、ネットの世界には、若者の創意や企業家精神をバネに発展してきた歴史がある。

 寡占化の動きは、さまざまなベンチャー企業を生み多様な競争が活力を生んできたネット市場の成長力を失わせる恐れがあるのではないか。

 これまでもマイクロソフトはライバル企業に対して、「買収されるか、つぶれるかだ」という攻撃的な手法を取ることが多く、独禁法適用をめぐり、米司法省などと訴訟合戦を繰り広げてきた。

 グーグルは「両社の経営統合でネット利用者の選択の余地が狭められる恐れがある」と同省に慎重な判断を求める声明を出している。

 ヤフーもマイクロソフトに対抗してグーグルとの提携を検討し始めているとの報道もある。しかし、一位と二位の提携では、新しい寡占を生むだけだ。

 マイクロソフトとヤフーの企業風土の違いも指摘されている。組織管理を重視するマイクロソフトに対し、ヤフーは自由な気風が強い。風土が異なれば、期待した統合効果を得られないこともありえる。

 検索分野では中国のベンチャー「百度」が急成長し、日本独自の検索エンジン開発を目指す官民の動きもある。新規企業も活躍できる柔軟なネット市場が望ましい。

 

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