現在位置:asahi.com>社説

社説天声人語

社説

2008年02月07日(木曜日)付

アサヒ・コム プレミアムなら社説が最大3か月分
アサヒ・コム プレミアムなら朝日新聞社説が最大3か月分ご覧になれます。(詳しく)

消費者行政―霞が関を再編する覚悟で

 福田首相が打ち出した「消費者が主役となる社会づくり」が、前倒しで進められることになった。中国製冷凍ギョーザの中毒事件がきっかけである。

 まず、有識者11人による消費者行政推進会議を発足させ、消費者行政の一元化について検討を進める。

 消費者の利益を守る行政は弱体だと批判されてきた。不幸な事件の結果とはいえ、弾みがつくよう期待したい。

 今回のギョーザ事件でも、行政の連携の悪さが浮き彫りになった。

 兵庫県と千葉県で中毒が起きた。だが、地元自治体は「警察に任せるべき事件ではないか」などと考え、厚生労働省への連絡が遅れた。1カ月近く公表もされず、新たな中毒被害を防げなかった。

 輸入元の本社がある東京都も、早い段階で兵庫県から中毒の情報を受けたが、ファクスの送信ミスを犯し、関係先へ大事な情報が伝わらなかった。

 どこかが陣頭指揮をとってもう少しうまく対応していれば、一連の事態を早くつかめた可能性がある。

 相次ぐように起きたガス湯沸かし器の不完全燃焼や欠陥車隠し、シュレッダー事故などの身近な製品事故でも、行政の対応のまずさが目についた。

 問題を素早くキャッチして情報を全国規模でまとめ、迅速に対応する。それには、内閣府、経済産業省、農林水産省、金融庁などに分散している消費者対応部門を一元化するのが欠かせない。

 しかしこの問題は、新組織をつくれば終わり、という単純な話ではない。推進会議での検討が始まる前に、もっと大きな視点でとらえておきたい。

 首相は先月の施政方針演説で、今年を「生活者や消費者が主役となる社会」へ向けたスタートと位置づけ、「生産者・供給者の立場から作られた法律、制度、行政や政治を、国民本位のものに改めねばならない」と語った。

 日本の各省庁は戦後復興期から一貫して、担当する産業や業界の育成を主眼としてきた。消費者の利益を守ることは、後から付け足されたにすぎない。首相の演説は、こうした役所のあり方を根本から変えていく意思表示だろう。

 近年、規制の緩和を進めてきた。これは、行政が事前に企業をあれこれ指導するのでなく、事業活動が社会にとって不都合ないかを事後にチェックする方式へ転換することを意味している。この点でも、消費者の立場からチェック体制を整備することは不可欠なのだ。

 役所の利害は担当先の業界と深く結びついているだけに、改革には省庁から強い抵抗が予想される。跳ね返すには首相自身が陣頭に立つ覚悟が必要だ。

 どうやって一元化するかについては、いくつかの考え方があろう。民主党は第三者機関に似た「消費者オンブズマン」の制度を唱えている。問題意識は共通しているのだから、対案を練り論議をたたかわせて、案を煮詰めていってほしい。

米大統領選―元気な民主、混迷の共和

 天王山を過ぎても、なかなか決着がつかない。11月の米大統領選をめざして進む民主、共和両党の候補者レースは予想以上の激戦になってきた。

 全米の半数近くの州で一斉に予備選と党員集会が行われた。「スーパーチューズデー」と呼ばれる、候補者選びの最大のヤマ場である。

 しかし、民主、共和両党とも明白な勝者は現れず、逆に脱落した候補者もいなかった。

 両党のムードは対照的だ。

 ヒラリー・クリントン上院議員とオバマ上院議員の一騎打ちになった民主党は、22州のうち半数以上の州でオバマ氏が勝利した。でも、カリフォルニア州やニューヨーク州などの大規模州はクリントン氏が制した。これまでに獲得した代議員の数はほぼ互角だ。

 皮切りのアイオワ州以来、各地の予備選や党員集会には記録的な人数が参加している。まれにみる接戦の面白さもさることながら、「ブッシュ氏の米国」に嫌気がさした人たちの、政権交代を求める熱気なのだろう。

 一方の共和党は、最有力のマケイン上院議員が主要州で勝利し、指名獲得に前進した。2番手のロムニー前マサチューセッツ州知事に代議員の獲得数で大差をつけた。

 だが、スーパーチューズデーで事実上、決着するのではとの見方もあっただけに、意外感は否めない。

 宗教右派の支持を集める牧師出身のハッカビー氏が南部5州を制した。ロムニー氏も中西部など7州を獲得した。穏健派のイメージが強いマケイン氏が、保守陣営をまとめきれるかはまだ不透明だ。

 マケイン氏は、ベトナム戦争中に5年半も捕虜になりながら屈しなかった「英雄」だ。上院では軍事外交問題の専門家として活躍し、知名度も高い。イラク戦争では、捕虜虐待などは批判しつつ、昨年からの米軍増派を含めて一貫して支持してきた。

 しかし、党内では異端児だった。04年の大統領選挙では、民主党候補のケリー氏から副大統領にならないかと打診されたこともある。不法移民への対応や地球温暖化防止などで民主党議員とも協力してきた。

 ブッシュ政権を支えてきた保守勢力の一部には、受け入れがたい「リベラル派」に映るようだ。

 ただ、保守派の旗手と目されたジュリアーニ前ニューヨーク市長や俳優のトンプソン氏は、早々と姿を消してしまった。「テロとの戦い」などでの強硬路線で売り込もうとしたが、今の米国では共和党内でも十分な支持を集められないということだろう。

 イラク戦争などを進めたネオコン路線はすっかり影をひそめている。経済不安も広がる中で、保守陣営が結束できるような新しい理念とは何なのか、まだ混迷と模索が続きそうだ。

PR情報

このページのトップに戻る