一度は訪ねてみたい世界遺産といえば、南米ペルーのマチュピチュ遺跡を挙げたい。標高約二千四百メートルの山頂に築かれたインカ帝国の古代都市だ。
インカ文明を支えた食糧としてジャガイモが注目されている。トウモロコシでは山岳地帯に不向きなことや人骨の調査結果などが理由という(伊藤章治著「ジャガイモの世界史」中公新書)。
寒冷でやせた土地でも育ち、栄養も豊富にある。岡山市のデジタルミュージアムで開催中の「失われた文明 インカ・マヤ・アステカ展」も、高度な文明の背後にジャガイモがあったと知れば一段と興味深い。
飢饉(ききん)に強いジャガイモは世界の人々を救った。戦乱の続くフランスやドイツなどで栽培が奨励された。アイルランドでは、十九世紀にジャガイモに疫病がはやり、農民が大量に米国に渡った。ケネディ家の移住もこの時代だった。
今年は国連が決めた「国際ポテト年」である。世界の食料安全保障に役立つジャガイモの価値を見直そうという。世界人口は、これから二十年間に、主に途上国で毎年一億人の増加が見込まれることを懸念してのことだ。
日本の食料自給率は39%しかない。輸入が止まればどうなるか。農林水産省の「不測時の食料安全保障マニュアル」では、ジャガイモなどイモ類への生産転換を進めるとしている。餓死者は出ないが危機的状況である。