ブッシュ米大統領が任期最後となる二〇〇九会計年度(〇八年十月―〇九年九月)予算教書を議会に提出した。
イラク戦費を含む「テロとの戦い」の支出増に加え、信用力の低い人向け住宅ローン(サブプライムローン)問題による成長減速と景気対策の減税が響き、四年ぶりに赤字増加に転じた。財政赤字額は〇八年度、〇九年度とも過去最大だった〇四年度(四千百二十七億ドル)に迫る。負の遺産は次期政権に大きな負担を強いることになろう。
予算教書は政府の予算編成方針に当たる。大統領に法案提出の権限がないため議会に対する要望の性格を持つ。〇九年度の歳出総額は三兆一千七十三億ドル(約三百三十兆円)と初めて三兆ドルを超える。
大統領の就任直前の〇〇年度は二千三百六十二億ドル(約二十五兆二千億円)と空前の財政黒字になっていたが、〇四年度には景気低迷に加え、減税やイラク戦費をはじめとする国防関係支出の急増で、坂道を転げ落ちるように史上最大の赤字を記録した。
その国防予算だが「聖域」扱いが続き、〇九年度は前年度比7・5%増の五千百五十四億ドル。また、イラクやアフガニスタン駐留経費を中心とする「テロとの戦い」の費用も七百億ドルを要求した。対テロ戦争への支出は米中枢同時テロ以降、累計で八千六百九十一億ドル(約九十二兆八千億円)に達し第一次世界大戦やベトナム戦争の経費をはるかに上回る。ブッシュ政権への批判は高まるばかりだ。現在十六万人弱のイラク駐留米軍は夏までに十三万人に縮小するがその後をどうするのか。出口戦略は次期政権に託される形となった。
膨張する戦費に加え、個人所得税還付や企業減税など約千五百億ドル(十六兆円)の緊急経済対策などで過去最大規模の財政赤字に直面する大統領だが政権公約の「一二年度の財政赤字解消」は維持すると断言した。だが前提にした実質経済成長率は〇八年2・7%、〇九年3・0%で米議会や民間エコノミストの予想より高い。達成できなければ税収が落ち込み、一段と赤字が増える可能性が残ろう。
財政悪化に対応し歳出抑制強化も表明した。なかでもベビーブーマー世代の大量退職で急増が見込まれる社会保障費などの伸びを圧縮するとした。弱者切り捨てになるため民主党主導の予算審議は難航するかもしれない。結局、ブッシュ大統領の任期八年間で財政収支の急速な悪化が明確になった。財政再建の道筋づくりは民主、共和党どちらが政権を獲得しても次期大統領が担わなければならない。
広島県安芸太田町の国設恐羅漢スキー場で、スノーボードをしていて遭難した七人が全員、救助された。悪天候のため安否が気遣われたが、自衛隊も出動する大掛かりな捜索で二日ぶりに助け出された。
七人はゲレンデを離れて山頂に向かったまま行方不明になった。雪が多い方へ行くうちに道に迷ったようだ。軽装備のため寒さと飢えが懸念されたが、廃屋のような小屋に避難し、あめなどを食べて過ごしたという。運が良かったということに尽きよう。
七人ともスノーボードの経験は十年ほどあった。よりスリルを求めて難しいコースに挑もうとしたのだろう。上達すると、そうした行動をとる人は多いが、天候が変わりやすい冬山の恐ろしさを見せつけられた。身近なウインタースポーツの場でも、大きな危険がつきまとうことを再認識したい。
長野県のスキー場では、大学のスキー実習中に雪崩が発生し学生二人が死亡する痛ましい事故が起きた。現場は降雪による雪崩の危険性があり立ち入り禁止になっていたが、学生七人と引率講師二人がスキーをしていた。
講師の一人は、立ち入り禁止コースに入ったことについて「雪面整備のために禁止されただけと、勝手に解釈した」と説明し「指導者としてあるまじき行動で大事な命を失い、申し訳ない」と謝罪した。雪崩を甘く見た判断ミスとしか言いようがない。
両県の事故では、冬山登山と違ってスキー場やその近くなら危険性は低いという油断があったのではないか。共通するのは警戒心の薄さである。手軽に遊べるスキー場でも、ふぶくと周囲が全く見えなくなる。用心深く、無理をしない心づもりが必要だ。
(2008年2月6日掲載)