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記者の目:「あるある」捏造発覚1年の関テレ 北林靖彦

 フジテレビ系で放送された関西テレビ(大阪市北区)制作の情報番組「発掘!あるある大事典2」で捏造(ねつぞう)が発覚して1年を迎えた。放送史上まれに見る不祥事は、総務省による「警告」の行政指導、日本民間放送連盟(民放連)除名、千草宗一郎社長(当時)の引責辞任などを経て、第1幕を終えた。

 現在、同社は再生に向け▽制作部門の人員増強など番組制作体制の再構築▽番組の作り方を視聴者にわかりやすく説く番組の放送▽第三者の視点で関テレに改善策を求める「活性化委員会」の設置--などに取り組んでいる。

 社長辞任後も千草氏が役員として残留する人事をいったん発表するなど、首をかしげるような“改革”も当初はあった。しかし今の取り組みの多くは真摯(しんし)な姿勢がそれなりに伝わってくる。ただそれは私自身が捏造発覚直後から取材を続け、変化を間近で見てきたから感じるのであって、視聴者にどこまで理解されているのかは疑問だ。

 捏造の背景には、視聴率を上げてCM収入を増やし、経費を削減しようとするテレビ局全体の体質があった。さらに「あるある」は制作会社に制作を丸投げしていたため、チェック機能も働かなかった。視聴率アップと余裕のないスケジュールが捏造につながった。

 関テレの改革は進んでいるのか。毎日放送(大阪市北区)の河内一友社長が「我々には見えてこない」と会見で話すなど他局の幹部からは疑問の声も聞こえる。

 07年の関テレの関西地区の年間視聴率は「ゴールデン」(午後7~10時)、「プライム」(同7~11時)の「2冠」。07年度決算は「減収減益の見通し」(片岡正志・関テレ社長)だが、それは業界全体の傾向で、「あるある」の影響はほとんどないという。不祥事が受信料不払いにつながったNHKとは違い、民放は直接視聴者が行動を起こすのは難しい。結局、捏造の影響を受けるどころか2冠。同業者だけではなく、視聴者の目にも危機感が薄いと映るのも無理はない。

 関テレは、健康情報番組で失った信頼は健康情報番組で取り戻すという趣旨で、「S-コンセプト」という番組を制作。制作会社に著作権を与え、捏造の原因の一端にもなった制作費の立て替え払いについては、要望があれば前払いすることにした。実際に制作会社が前払いを積極的に要望できるかどうか、疑問な点もあるが、一定の評価はできる。番組は昨年11月から原則として毎月1回、土曜か日曜の午後に放送。これまでは、ダイエット法や料理、人体の不思議を科学的に検証する内容で、丁寧に作っているが、放送は関西ローカルだ。「あるある」は全国ネットだったため、関西以外の視聴者に責任を果たしたとは言えない。

 また、森永ヒ素ミルク事件を通じて不祥事を起こした企業の責任の取り方を追ったドキュメンタリーなど、社員やスタッフの再生への思いが感じ取れる良質な番組も複数あったが、深夜のローカル放送だった。

 視聴者や同業者の「まだ反省していないのではないか」という疑念を払しょくするためにも、こういった番組は、思い切って視聴率の高い時間帯に放送する必要がある。関テレは「SMAP×SMAP」など全国ネット番組枠を保持している。すべてとは言わない。視聴率が下がっても、せめて月1回は番組を差し替える決断が必要だ。

 東京支社制作の全国ネット番組の改革も急がれる。既に実施している制作体制強化に加え、関テレアナウンサーの積極的な登用も提案する。「あるある」はフジテレビアナウンサーが出演していたこともあり、フジの番組と思い込んでいた視聴者も少なくなかった。関テレアナウンサーが出れば、本社のある大阪から離れていても、全国の視聴者の目にさらされることで関テレ側に緊張と当事者意識が生まれる。現に関テレと同規模の準キー局、読売テレビ(大阪市中央区)は、自社アナウンサーを東京支社制作の全国ネット番組に出している。

 ネット番組差し替えはキー局やスポンサーとの交渉が必要で手間がかかる。「現実には難しい。できることからやるしかない」(西畠泰三・関テレ編成局長)と言うように簡単ではないだろう。だが今年8月の北京五輪までの民放連復帰を目指すのならば、関テレに「待った」はないはずだ。

 関テレは今年で開局50年。しかし民放連発行の「会員社人名簿」の最新版に関テレの名前はない。その現実を重く受け止め、全国の視聴者に目に見える形で改革と再生を示すべきだ。(大阪学芸部)

毎日新聞 2008年2月7日 0時13分

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