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身勝手な飼い主 動物の命ないがしろに

2月6日13時18分配信 産経新聞


 「この犬をお願いします」

 関東地方のある市の保健所。60代の男性が生後1週間の雑種犬3匹を持ち込んできた。

 「子犬たちは処分されるんですよ。それでもいいんですか?」。考え直してほしい…そう願いを込めて説得する職員。しかし男性は「私の勝手でしょう」と冷たく言い放った。

 実は男性は数年前から毎年のように、飼っている犬や猫をここへ殺処分に持ち込んでいた。数が増えすぎて手に余ると施設に頼る、という繰り返しだったのだ。

 なかなか引き取ろうとしない職員に、男性は顔を赤くして詰め寄った。「なんで受け取ってくれないんだ!」。職員も拳を握りしめ、負けじと言い返す。「去年も持ってきたじゃないですか。避妊手術をしてくださいと、あれほどお願いしたじゃないですか!」

 しかし、男性は平然とうそぶいた。「自然のままに育てるのが私の主義なんだ。傷つけるなんて、かわいそうじゃないか」

 男性がどんなに理不尽であっても、保健所は結局、受け取らざるをえなかった。「動物の愛護及び管理に関する法律」第35条で、地方公共団体は所有者の求めがあれば犬、猫を引き取らねばならないと義務づけられているからだ。別の職員は「本当は『連れて帰れ!』といいたいですよ。でも、今の法律じゃできないんです」と唇をかんだ。

 飼い犬、飼い猫を繰り返し保健所や動物愛護施設へ捨てに来る“リピーター”がいる。犬・猫の殺処分数は年々減少傾向にあるにもかかわらず、ペットの命をないがしろにする身勝手な飼い主は目立ってきている。

 動物行政を管轄している自治体では、引き取りを有料にしたり、氏名・住所・捨てる理由を記録するなど、リピーターを防ぐ対策をとっている。福岡市西部動物管理センターによると、他の飼い主への譲渡を勧めるなど殺処分しない方法を探っているが、「『どうしても』といわれたら断ることはできない」のが現状だ。

 茨城県の動物指導センターに18年4月〜19年8月の間に、飼い犬・猫を複数回引き取り依頼した飼い主は82人。「避妊費用がもったいない」「病気や老衰で介護できない」「飽きた」「鳴き声がうるさいと近所に怒られた」など、身勝手な理由を並べる人が少なくない。センターでは昨年10月、これらの飼い主に「(施設の殺処分は)所有者のあなたが処分することと同じです」と反省を求める手紙を送付したのだが…。

                  ◆◇◆

 17年10月、推定10歳のミニチュアプードル、リフトくんが東京都小金井市内の公園で捕獲された。毛は伸び放題で体臭もひどく、両前足の肉がそげて骨が見える痛々しい状態だった。よほどひどい目に遭ったのだろう。栄養失調でガリガリにやせていたにもかかわらず、人に寄りつかず1週間も逃げ回っていた。

 自宅に引き取った地域の動物愛護推進員、武岡史樹さんは「半年から1年間はまともな世話を受けていなかったようで、表情や喜怒哀楽を失っていました。客に見せるために顔にバリカンを入れた跡が残っており、ブリーダーが飼育していた可能性が高い」と話す。

 武岡さんによると、同様の捨て犬が、時には何匹も公園でさまよっているという。

 動物愛護団体「地球生物会議」の野上ふさ子代表は、「(バブル期の)シベリアンハスキーブーム以降、都市部で純血種の捨て犬が増えている」と話す。

 最近ではチワワ、ミニチュアダックスフンド、プードル。CMやドラマの影響で“ブーム犬”が生まれる。しかし、ブームが去って商品価値が下がったり、病気や加齢で繁殖に適さなくなった犬を、公園などに繰り返し捨てる業者がいるのだ。

 ミニチュアプードルのリフトくんも、もっと小型のトイプードルに人気が移り、繁殖犬として飼われていたのが捨てられてしまったとみられる。「保健所に持っていきすらしない。彼らこそリピーターですよ」と武岡さんは語気を強める。

 こうした業者は、名前や住所を偽って処分施設に複数の犬猫を持ち込んだりもする。だが、窓口では身分証明書の提示は義務づけられておらず、業者かどうか確認しているのも全国で49自治体に留まっている。

                  ◆◇◆

 日本動物愛護協会の会田保彦事務局長は3年前、東京・六本木のマンションに住む若い女性からの電話に耳を疑った。

 「生後1年のマルチーズの里親を探してほしいんです。寂しいから飼ったけれど、彼氏ができていらなくなったから…。保健所に持っていくと殺されちゃうんでしょう?」。動物をぬいぐるみやファッションの小物のように扱い、飽きたら捨ててしまう。すべて自分の都合なのだ。

 「純血種を殺処分に持ち込む人は、畜犬登録や狂犬病予防注射など法律で定められた健康管理すら果たしていない人が多い。あまりに短絡的で責任感がなさすぎる」と会田さんは憤りを隠さない。

 日本では子供の数よりもペットの数の方がはるかに多い。そして、“ブーム犬”という現象は日本だけのものだという。

 「自分勝手な飼い主たちと、それに乗じた一部の悪質なブリーダーのせいで、動物たちがひどい目に遭っています。死ぬまで面倒をみる覚悟があるのか、動物を飼える環境にいるのか、そういう“当たり前”のことを動物を飼う前にきちんと考えてほしい」(田辺裕晶)

                   ◇

 《メモ》
 全国の保健所や動物愛護センターなどで殺処分される犬・猫は年間約35万3000匹(平成18年度)。過去10年間でほぼ半減している。地球生物会議などがまとめた「全国動物行政アンケート結果報告書 平成18年度版」によると、犬の処分数が多い都道府県は(1)茨城県7249匹(2)沖縄県6399匹(3)千葉県6251匹。猫は(1)愛知県1万2619匹(2)福岡県1万2597匹(3)大阪府1万1518匹−となっている。

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最終更新:2月6日13時18分

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