医師養成にかかる費用 1
Posted by guideboard on 2007/09/22/Sat
本記事の原典は、2006 年 9 月 18 日、http://sword.txt-nifty.com/guideboard/2006/09/__9966.html にアップされた。原典は削除された。
キーワード
医師、養成、費用、税金、国費、都市伝説
医師一人の養成には、莫大な税金が使われている。
私立の医科大学の授業料は年間数百万円を下らない。入学金は何千万円といわれているではないか。医師一人を養成するのに、少なくとも 1 億円はかかっているだろう。サラリーマンの 20 年分くらいの年収に匹敵する金を税金から出してもらって医師になれたのだ。よって国民に奉仕せよ。安い給料、劣悪な待遇でも文句を言える立場ではない。僻地勤務が嫌とは言語道断。強制的にそういうところで医師が奉仕するような制度を作るべきだ。
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産經新聞 Sankei Web 2006.4.21
一人の医師を育てるためには、莫大(ばくだい)な公費も投入されている。人手不足の小児科で医師が自殺したり、急患がたらい回しで死んだり、下手な手術で長々と入院する事態を避けるためには、医師が診療科や専門を選ぶ際に、もう少し患者の利益に立ったバランスが考慮されてもいいと思うのだ。
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医学部単独の財務を調べることは難しいので、単科医科大学、医科歯科大学、医科薬科大学などの財務諸表を見てみる。
第2期事業年度(平成17年度)財務諸表 自平成17年4月1日 至平成18年3月31日 国立大学法人 浜松医科大学 ( pdf 保存 86KB )
経常費用
業務費
教育経費 253,647 ( 千円 )
教員人件費 2,931,295
経常収益
授業料収益 574,569
入学金収益 65,198
検定料収益 22,887
附属病院収益 11,926,694
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国立大学法人 滋賀医科大学 第1期事業年度(平成16年度)財務諸表 ( pdf 保存 518KB )
経常費用
業務費
教育経費 337,087 ( 千円 )
教員人件費 2,916,885
経常収益
授業料収益 531,576
入学料収益 64,634
検定料収益 22,565
附属病院収益 12,457,615
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平成16事業年度 財務諸表及び附属明細書(平成16年4月1日~平成17年3月31日)国立大学法人 東京医科歯科大学 ( pdf 保存 293KB )
経常費用
業務費
教育経費 735,824 ( 千円 )
教員人件費 常勤教員給与 7,836,672 非常勤教員給与 137,425
経常収益
授業料収益 1,459,423
入学金収益 202,714
検定料収益 53,720
附属病院収益 20,630,388
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平成 16 年度財務諸表 国立大学法人 富山医科薬科大学 ( pdf 保存 1.3KB )
経常費用
業務費
教育経費 442,029 ( 千円 )
教員人件費 3,765,668
経常収益
授業料収益 881,470
入学料収益 115,366
検定料収益 38,046
附属病院収益 11,111,396
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私立医科大学のものを見てみる。
平成17 年度学校法人日本医科大学決算 ( pdf 保存 220KB )
教育研究経費支出 1,489 ( 百万円 )
人件費支出 33,654
学生生徒等納付金収入 5,497
手数料収入 312
寄付金収入 1,115
医療収入 58,978
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平成 17 年度 事業・財務状況等について 学校法人東京医科大学 ( pdf 保存 488KB )
平成 17 年度資金収支計算書
教育研究経費支出 28,009,216 ( 千円 )
人件費支出 27,579,685
学生生徒等納付金収入 3,217,454
手数料収入 162,723
寄付金収入 1,526,887
医療収入 52,805,364
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私立医科大学は学校法人全体のもの、医科歯科大学は歯学部の、医科薬科大学は薬学部のものが一緒に入っているから、単純に医学生一人にかかる教育費や、医学部単独の教員人件費は分からない。
国立大学法人の単科医科大学、浜松医科大学と滋賀医科大学のものを見てみる。滋賀医科大学は看護学科のものが入っているから、浜松医科大学よりも数字が大きくなっている。
浜松医科大学 ( 千円 )
教育経費 253,647 / 教員人件費 2,931,295
授業料収益 574,569 / 入学金収益 65,198 / 検定料収益 22,887 / 附属病院収益 11,926,694
滋賀医科大学 ( 千円 )
教育経費 337,087 / 教員人件費 2,916,885
授業料収益 531,576 / 入学料収益 64,634 / 検定料収益 22,565 / 附属病院収益 12,457,615
教育経費と教員人件費を医学生の頭数で割ってみよう。
1 学年の定員 : 浜松医科大学 95 人、滋賀医科大学 85 人
医学生一人当たりの 6 年間の費用 : 浜松医科大学 33,525,000 円、滋賀医科大学 38,282,000 円
このような、大きい方にぶれているであろうおおざっぱな計算でも学生一人当たり 6 年間で 3,500 万円前後である。
教員は、教育、臨床、研究をやっている。すなわち、教員人件費で、研究と診療も行い、病院収益を 120 億円ほど、年間で上げているのだ。
しかも、どちらの医科大学も、授業料収入の方が教育経費よりも大きい。教育だけについて言えば、授業料収入で黒字なのだ。税金からの補助金は、そのほとんどが付属病院や研究施設に使われていることになる。
こうして見ると、医学生一人を医師にするのに入学金と授業料、計 700 万円ほどで足りることが分かる。どこから出たのか分からない数字だけが一人歩きし、冒頭のような都市伝説が生まれてしまっているのだ。
参考資料
コメント
初めまして。
過去記事へのコメントで申し訳ありませんが、
医師育成にかかる費用に関して調べていて辿りつきました。
貴重な資料提示ありがとうございます。
私立大学の授業料が平均3500万円/6年間であることから、医師育成の費用とはその程度だと思います。
記述に関してなんですが、最後の部分の700万円とはどういった計算からでしょうか?お教え頂ければ幸いです。
投稿 doctor-d | 2007/05/16 10:56:40
doctor-d 先生
こんにちは、はじめまして
授業料、入学金、検定料を足して学生数で割った数字が、6 年間学生 1 人当たり 700 万円 です。
浜松医科大学 ( 千円 )
授業料収益 574,569 / 入学金収益 65,198 / 検定料収益 22,887
1 学年の定員 : 浜松医科大学 95 人
( 574569+65198+22887 ) / 95 = 6,975 ( 千円 )
滋賀医科大学 ( 千円 )
授業料収益 531,576 / 入学料収益 64,634 / 検定料収益 22,565
1 学年の定員 : 滋賀医科大学 85 人
( 531576+64634+22565 ) / 85 = 7,280 ( 千円 )
乱暴な試算ですが、学生が支払う総額が 700 万円、教員人件費で診療報酬を稼ぎ、補助金は研究、施設、設備に使われるものが大部分であろうとするとこうなる、という数字です。
新しい記事もご参照ください。
医師養成にかかる費用 2
http://sword.txt-nifty.com/guideboard/2007/05/2_8ae6.html
投稿 道標主人 | 2007/05/16 17:28:47
丁寧なご説明ありがとうございます。参考にさせていただき、記事を作成してみます。
投稿 doctor-d | 2007/05/17 12:32:43