川口盛之助の「ニッポン的ものづくりの起源」

敵機ロックオン技術で赤ちゃんの笑顔を捕捉する

デジカメ未来形:記録写真から記憶写真への進化(1)

 先日、海外の知人が訪ねてきて、都内を案内する機会がありました。世界の電気街・秋葉原に行き、ぜひ日本製の優秀なカメラを手に入れたいという話になりました。ところが、彼の所望するカメラを探して免税ショップを何軒も訪ね歩いても、なかなか見つかりません。

 というのも、彼が求めていたのはフィルム式のコンパクトカメラだったからです。彼の母国ではいまだにフィルム式が一般的なのですが、今やわが国の店頭で「最新式」のそれを探すことは難しい状況になっていました。

 アナログの時代からカメラの電装化は着実に進んでいます。1985年に登場したミノルタの一眼レフ「α7000」に搭載されていたオートフォーカス機能は衝撃的でした。当時、自動でカメラがピントを合わせてくれるという機能は、SFチックな感じさえしたものです。プロ仕様だった自動巻き上げや高速連写も、いつの間にかコンパクトカメラの標準機能になっていました。

 これらは電子デバイス技術の発達のたまものです。露出やピントなどの撮影条件は自動で最適化し、巻き取りやフィルム交換などの面倒な作業は極力削ぎ落とす。この使い勝手系は日本の技術陣のお家芸です。もうこれ以上何ができるのだろう、という踊り場にきたところで、遂にデジタルカメラが登場しました。90年代半ばのことです。

「スマイルシャッター」は次世代の前準備技術の先駆け

 そのデジカメも進化し続け、最近の機能には顔に注目した3つの大きな特徴があります。

  1. 逆光の場合でも、顔と背景のバランスが調節され、顔が暗くならない
  2. 人が中央にいない場合でも、顔にピントが合う
  3. フラッシュによる赤目や金目を補正する
笑顔を逃さない新機能「スマイルシャッター」の商品企画を担当したソニー・パーソナルイメージング事業部の越智龍さん

笑顔を逃さない新機能「スマイルシャッター」の商品企画を担当したソニー・パーソナルイメージング事業部の越智龍さん(写真:山西 英二)

 写真機にとって最も大切な“お得意様”は人の顔です。電装技術の進歩により、このお得意様へのサービスは飛躍的に手厚くなりました。シャッターが押されるまでのわずかな時間のうちに、画面内にある顔を認識したうえで、ピントや光量を常に顔に合わせて準備しておく「前準備」の仕事。これに加えて最近ではいったん取り込んでしまった画像でも、赤目のように明らかな失敗個所に関しては、目で見た感じに再現して近づけようとする「後加工」の仕事まで請け負うようになっています(注:フラッシュを2度光らせる機構は「前準備」です)。

 前準備、後加工ともに新しい夢のような機能はどんどん開発されていくわけですが、今回のコラムは次世代型の前準備技術、その先駆けとなる笑顔認識技術について分析をしていきたいと思います。昨年にソニーからリリースされた新機能「スマイルシャッター」です。その商品企画を担当されたソニー・パーソナルイメージング事業部の越智龍さんにお話を伺いました。

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このコラムについて

このコラムでは、商品の機能やデザインにフォーカスし、その商品が生まれた発想の起源を探ります。特に日本の商品に密かに隠れたいかにもニッポン的な「和」のテイストに注目しながら、日本のものづくり文化に息づく競争力の源泉を紐解いていきます。

筆者プロフィール

川口盛之助
(かわぐち・もりのすけ)

川口盛之助

慶応義塾大学工学部卒、米イリノイ大学理学部修士課程修了。日立製作所で材料や部品、生産技術などの開発に携わった後、KRIを経て、アーサー・D・リトル(ADL Japan)に参画。現在は、同社シニアマネージャー。世界の製造業の研究開発戦略、商品開発戦略、研究組織風土改革などを手がける。著書に『オタクで女の子な国のモノづくり』(講談社)がある (写真:山西 英二)

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