◎Tシャツに金箔 こんな異業種交流をもっと
北陸屈指の「若者のまち」である金沢市竪町で斬新な発想力を武器に勝負している若い
衣料ショップ経営者と、長年の伝統に裏打ちされた確かな技を持つ箔職人との異業種交流によって、新しい技術が生み出された。この技術を用いると、金箔をTシャツなどの布製品に自由自在にプリントでき、しかも洗濯してもはがれないという。金沢の伝統工芸の実力をあらためて内外に印象付けるとともに、「ファッション都市」という新たな側面の発信にもつながりそうな、期待の持てる技術だ。
全国シェア99%を誇る金沢の金箔業界も、他の伝統工芸と同様、先の見通しは必ずし
も明るくないのが現状だ。得意先である宗教関連市場の縮小が続き、さらに後継者不足と材料の金の高騰が苦境に拍車を掛けている。「伝統は革新の連続なり」という。新たな用途や販路を開拓し、先細りを防ぐためには、もっと積極的に異業種交流に目を向けていく必要があろう。
今回、布製品に金箔をプリントすることを思いついたショップ経営者は、パートナー探
しに相当の時間を要したという。金箔を生かすユニークなアイデアを温めているにもかかわらず、伝統工芸の独特の「敷居の高さ」に尻込みしている企業や経営者がほかにもいるかもしれない。
金沢市が計画している「金沢箔技術振興研究所(仮称)」の開設検討委員会は昨年十一
月、金箔を利用したい人と生産者を結び付ける商品開発コーディネート機能を同研究所に持たせることなどを盛り込んだ提言書を山出保市長に提出している。同研究所は安江金箔工芸館が東山へ移転した後に併設されることになっているため、開設時期は未定だが、この種の機能は開設を待たずに実現させてほしい。「Tシャツに金箔」のようなアイデアを埋もれさせないためにも、敷居はできる限り低くしなければならない。
もちろん、外から寄せられるアイデアをただ待っているだけではいけない。金箔はあく
までも何かの素材であり、そのままの形でエンドユーザーに届くことはまずあり得ないのだから、金箔業界側も、自らが知恵を絞って新しい用途を考え、異分野の企業に提案するような前向きな姿勢を忘れないでもらいたい。
◎ウイルス危機 頼みの施設稼動せずとは
新型インフルエンザウイルスによるパンデミック(世界的流行)が近づいているとの警
告に加え、今度は欧州で流行中のAソ連型インフルエンザウイルスから治療薬タミフルが極めて効きにくい耐性ウイルスが高率で見つかっているとのニュースが世界を駆けめぐった。人間や動物が多様なウイルスの攻撃にさらされている状態を「ウイルス危機」と研究者は呼ぶが、そうした中で最も重要な対策の一つが忘れられているようなのはまことに残念だ。
それは、人間や動物に襲いかかると重篤な災害を引き起こす強いウイルスの正体を突き
止めたり防御の方法を研究したりする「BSL4」と呼ばれる施設が日本ではまだ稼働していないことである。
人間や環境への影響の強さを物差しに、ウイルスを1から4までのレベルに分類し、最
もどう猛なレベル4のウイルスを取り扱うのがBSL4施設である。この施設は国立感染症研究所村山分室(東京都武蔵村山市)と独立行政法人・理化学研究所筑波研究所(茨城県つくば市)にすで完成しているのに、周辺住民の反対で稼働できないでいるのだ。未稼働は先進国で日本だけである。
レベル4のウイルスとは人から人へとうつり、死亡率が高く、しかも有効な治療や予防
法が通常得られないものとされ、よく知られているものとしてエボラ出血熱ウイルスや天然痘ウイルスなどがそうだ。
二〇〇一年、米国で炭疽(たんそ)菌を使ったテロ(いわゆるバイオテロ)が起き、そ
の翌年、中国南部の広東省で新型肺炎(SARS)が集団発生し、それが各国へ広がって大騒ぎになったことなどからBSL4施設の重要性が国際的に認識され、同施設の建設が世界的ブームになった。
アジアでは台湾、シンガポール、インドで稼働している。ウイルスに対する日本の備え
は万全ではなく、日本の研究者はカナダや米国などの施設を使わせてもらっているありさまだ。BSL4施設なしでは侵入してきた危険なウイルスや、未知のウイルスの正体を速やかに突き止められない。ウイルス危機をきっかけに他の先進諸国が行ったように、住民の理解を得る努力に取り組み、稼働させたいものだ。