先月下旬から、くらし面で新企画「泉のほとり」を展開している。読者投稿欄「泉」の執筆者を記者とカメラマンが訪ね、掲載作の背景や活字に込めた思いを紹介する。
初回は、祖母の記憶を頼りに、かまどで湯を沸かし、こんにゃくを手作りする岡山県北の女性。もくもくと上がる湯気と、イモをすり固めた瑞々(みずみず)しいこんにゃくの写真が紙面に躍った。コンビニ、ネットショッピング、何でも簡単に手に入る現代だからこそ、手間を惜しまない手仕事が心に残った。
二回目は岡山市内の八十代女性。取材を前に、ふっくらした日本髪、着物姿でピンと背筋を伸ばした十九歳当時の写真を送ってくれた。「ぜいたくは敵」「欲しがりません、勝つまでは」。戦時色が強い中、一度きりの“おしゃれ”だったという。色あせた写真の少女からは、期待と恥じらいが伝わってきた。戦中、戦後に過ごした青春は苦労も多かったのだろうが、それでも「今は子や孫に囲まれ、こんな幸せはないじゃろう」と。
二人とも、エッセーに書ききれなかった思いを存分に語ってくれた。若い女性記者は、今では忘れられつつある時代にイメージを膨らませ何度も聞き直し、ベテランカメラマンは生き生きと語る女性たちの表情をカメラに収めようと、盛んにシャッターを切った。
権威や名利ではなく、日々の暮らしにこつこつと精を出す自然な風景を追っていきたい。明るく楽しく、そして元気な姿を、一人でも多く共感していただけるシリーズになれば、と思う。
(文化家庭部・赤井康浩)