実家に帰った折、竹を切りに山へ入り、子どものころが懐かしくて少し歩いてみた。
山際の棚田は上部の田に木が生い茂り、山に返っていた。下の方も何年も耕作された様子がない。隣の畑は竹林に変わっていた。中腹にあった畑もそこへ行く道も樹木に覆われ、記憶に残るミカン畑はついに見つけられなかった。
環境省が昨年発刊を始めた広報誌「エコジン」の創刊号に、カエルのアベルの話が出てくる。軽井沢の里山を案内するエコツアー会社の人が、アベルと名付けたカエルに発信機を取り付けた。一年目と二年目、アベルは山の斜面にいた。
三年目、発信音はアベルが木の上にいることを示した。調べてみると鳥の巣に発信機だけがあった。アベルは鳥のヒナの餌になってしまったらしい。森の案内人は記事の中で、美しさばかりでなく、弱肉強食で成り立つ生きている森の厳しさも知ってほしいと語っていた。
昔遊んだ里山も命の大切さや自然の厳しさを教えてくれた。懐かしさを胸に、長年過ごしてきた。だが、何十年かぶりで現実に接した山はイメージとあまりに違った。荒れ果て、痛々しかった。
国は、昨年秋決まった「第三次生物多様性国家戦略」でも動植物の生息空間、人が自然とふれ合う場として里地・里山の価値を強調する。貴重さをいうだけでなく、保全のための実効ある具体策がいる。