政府は国土交通省の外局として観光担当部署を統合した「観光庁」の十月設置を決め、関連法案を国会に提出した。中央省庁の外局が新設されるのは、二〇〇〇年七月の金融庁以来である。
観光庁については、〇六年に「観光立国推進基本法」が成立した際に衆参両院で設置を求める決議が行われた。旅行業や航空、鉄道といった観光関連業界からの要望も強かった。
計画では、観光庁は国交省内の観光関係六課(約八十人)を統合し、百人規模でスタートする。組織の概要は、長官の下に総務課や国際観光政策課など四課を置き、さらに二つの課を有する観光地域振興部も設ける。
〇七年に閣議決定した「観光立国推進基本計画」では、一〇年までに訪日外国人旅行者を一千万人に、日本人の海外旅行者を二千万人にすることなどを目標として掲げている。この推進役を担う核が観光庁というわけだ。
海外には、観光省や政府観光局など専門の組織を設けて強力に外国人旅行者誘致を働きかけている国が多い。日本が競争していくには特化した組織の必要性は理解できる。国交省は「内外に意思を示すとともに、司令塔として他の関係省庁との一体性も増す」とメリットを強調する。
しかし、組織をつくるだけでは観光立国は果たせない。厳しい財政状況下で行政改革が叫ばれている折、新たな外局の設置には厳しい目も注がれよう。納得させるだけの説明がいる。
観光庁が力を入れるべきは外国人旅行者の誘致である。国際観光振興機構の調べでは、〇七年の訪日外国人旅行者は約八百三十四万九千人。前年比13・8%増で四年連続過去最高を更新した。韓国や中国などアジアからの旅行者が目立つ。経済成長や為替相場の円安基調による購買意欲などが要因と思える。
とはいえ、いつ揺り戻しがくるか分からない。依然海外への日本人旅行者数より大幅に下回っている。いまのうちにしっかり定着させ、広げていくことが大切だ。
そのためにも、旅の関心を地方に向けさせることが一層重要だ。各地に四季折々の美と、歴史や伝統がはぐくんだ文化や観光資源がある。日本観光の奥深さは、訪日外国人を魅了することだろう。
各地は、外国人旅行者の誘致に知恵を絞りながらも悩んでいる。観光庁は上からの目線による指導でなく、情報提供や柔軟な施策の運用などを通し、地方の創意工夫を支え、高めていくよう力を注がなければならない。
ソフトウエア最大手の米マイクロソフト(MS)が、米インターネット検索大手ヤフーに対し、総額約四百四十六億ドル(約四兆七千五百億円)で買収を提案した。
株式取得にあたり、直近のヤフーの株価より62%の上乗せを示した。ヤフー側は提案を「注意深く検討する」としている。実現すれば、ネット企業の買収としては過去最大規模となる。
ビル・ゲイツ氏が一九七五年に設立したMSは、基本ソフト(OS)の「ウィンドウズ」シリーズを武器に、ソフトウエア市場で圧倒的なシェアを誇ってきた。しかし、さまざまなソフトをネット経由で提供する形態が増え、OSの重要性は以前に比べ低くなっている。
一方、インターネット検索の分野では、検索と連動したネット広告という新たなビジネスモデルを構築した米グーグルが米国市場の六割を握り、約二割を押さえるヤフー、一割のMSを突き放している。今後もインターネットを通じたサービスの市場が飛躍的に拡大するのは確実だ。
MSが巨費を投じて買収提案に踏み切ったのも、ヤフーを傘下に取り込むことでオンラインサービス市場での競争力を強化し、ネット分野での覇権を奪取したいとの思惑があるのだろう。ただ、グーグルは米国の独占禁止法当局に慎重な判断を求める声明を発表しており、今後の展開は予断を許さない。
情報技術(IT)業界を揺さぶる今回の買収提案は、成長著しく変化の激しいネット企業に、主導権を握るための再編の大波が押し寄せてきたことを浮き彫りにした。業界の勢力図が大きく塗り替わりかねないダイナミックな動きである。
(2008年2月5日掲載)