【もう一つの日本】(10)日本に「もう1人の6世」
12/23 18:48更新
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どこか懐かしく、ほっとさせられる笑顔ばかりだった。ブラジルの民家の勝手口から割烹(かっぽう)着のような姿で出てきた日系1世のおばあさん。アマゾンのジャングルの農園で、しぼりたてのコプアス・ジュースをふるまってくれた2世の奥さん。パラオで衛星放送を眺め、日本の政局の動きに苦笑していた2世のおじいさん…。
そうした笑顔は、サンパウロで出会ったブラジル日系社会初の6世、大西エンゾ優太ちゃん(2)まで100年の時を越えて、しっかりと受け継がれていた。
「実は、優太と同じ6世の男の子の親戚(しんせき)が日本にいるんです」
祖父の中村パウロ修さん(64)からこう紹介され、帰国後、瀬戸内海に近い広島県海田町を訪ねた。船山カイキ龍一ちゃん(4)。2児は共通の曾祖母(ひいおばあさん)をブラジルで持つ。カイキちゃんの父親は9年前に日本へ出稼ぎにきた。カイキちゃんの方が年上だが、日本生まれのため、ブラジル日系社会初の6世は優太ちゃんになる。
日系ブラジル人の日本への出稼ぎは昭和60年ごろに始まり、現在30万人。過去100年にブラジルへ渡った日本人24万人を上回る。こうした逆移住の流れはアマゾン河の大逆流現象にたとえて「ポロロッカ」とも呼ばれる。自動車部品や弁当工場で働くケースが多く、日本人の暮らしに最も身近な「車とコンビニ弁当」の生産を支えている人々の多くは、実はかつてブラジルへと渡ったわれわれと同じ日本人の子孫なのだ。
カイキちゃんは黒髪に黒い瞳。「こんにちは」とはにかんだ様子であいさつした。保育園では日本語、自宅ではポルトガル語という。自動車メーカー「マツダ」の下請け工場で働く父親の5世、ダニロ正さん(29)は来日後に覚えたという日本語で言った。
「僕の先祖は日本人だけど、僕はブラジル人。それは間違いない。だけどカイキは何人(なにじん)なのだろう」
日本は少子高齢の人口減少時代を迎える一方、外国人労働者は年々増え続け、日本に住む外国人の数は150万人を超えた。カイキちゃんのような新たな世代は今後、増えこそすれ減ることはない。われわれの社会はこれからどこへ向かうのだろうか。
85歳の今も日本とブラジルを往復する「最後の日本人」を訪ねた。
■子供たちに残せる「日本」とは
「フィリピンで30年、ブラジルへきて32年になりますが、片時も日本人であることを忘れたことはない。だって家族のため、郷土のため、ひいては日本のために30年間、命を賭けたんだもの」
元陸軍少尉、小野田寛郎さんは背筋がピンと伸びていた。太平洋戦争末期から29年3カ月、フィリピン・ルバング島で戦闘を続けた。昭和49年の衝撃的な帰国後、わずか1年でブラジルへ移住し、牧場主になってまた世間を驚かせた。
当時は戦後30年。わが国は経済的繁栄を謳歌(おうか)していたが、小野田さんは絶望した。「敗戦を終戦と言い換えて目をそらし、何でもカネ、カネの戦後日本人に埋めがたい断絶を感じた。こんな日本のために俺は30年も戦ってきたのか」…。次兄が移住していたブラジルへ渡る決意をした。
戦後62年。今にして振り返れば、小野田さんは戦後の折り返し地点で日本人の前に姿を現し、去って行ったことになる。同じだけの年月を経た今、小野田さんは「日本人はますます質が悪くなってしまった。清き直(なお)き日本人は本当に少なくなった」と嘆く。
「ブラジルで信用できることをジャポネスみたいだというが、日本ではもう、日本人だからといって信用できない。創業何百年も、中央省庁の看板も。責任を怠り、欲望だけになってしまった」
ブラジル、パラオ、スペインと世界をぐるりと一周する旅を終えて帰国したら不思議な感覚に捉われた。日本でよりも、かの国々で「日本人より日本人らしい」人々に出会ったからだ。懐かしい情景を目にしたからだ。
果たしてこれは海外旅行だったのか。もしかすると、最も純粋な「国内旅行」ではなかったか。そこで出会った人々は、自らを見失いつつあるわれわれ日本人の姿をくっきりと映し出す鏡のようなものだった。
小野田さんはブラジルで牧場を営む傍ら、福島県の山中で自然に学ぶ体験塾を開いてきた。子供たちにだけは絶望していないからだという。
ブラジルで日本人の美質を吸収しながら育つ優太ちゃん。日本で成長するカイキちゃん。やがて大人になる4つの黒い瞳のために、われわれはどんな「日本」を用意できるだろうか。
(終わり)
文・写真 徳光一輝
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